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夢主視点


 おやつを食べた後、愛染さんと屋敷の中を探検をした。本丸の屋敷は広く、愛染さんも全ての間取りを把握できていないのだとか。
 彼方此方を見て回っているとすぐに夕方になった。愛染さんは夕飯を食べようと私を引っ張るように座敷へと向かった。
 その途中、審神者さんの部屋の前を通ると、ちょうど審神者さんが障子戸を開いた。
「あれ、もう夕飯? 」
「んー、まだ呼ばれないけど、多分そろそろだと思うぜ! 」
「そっか、もう夕方だしね。でも、屋敷は走っちゃ駄目だよ」
「早歩き! 」
 そうは見えなかったけどなあと審神者さんは笑い、私へと視線を向け、閃いたと顔を輝かせた。
「ヒカルちゃん! 夕方食べたら一緒にお風呂入ろう! 」
 お風呂ですかと首を傾げれば、審神者さんはそうだよと笑う。
「いつも私もヒカルちゃんも小さな方のお風呂を使ってるでしょう。たまにはみんなが使ってる大きなお風呂に入りたくない? 」
 大きなお風呂とはどれぐらい大きいのかと考えていると、愛染さんはそれなら俺たちは主さん達の後に入ると笑った。
「ちゃんと立て札とか置いておけば大丈夫だし、広い風呂は気分が良いからな! 」
「愛染は小さいお風呂も広いお風呂も入ったことあるもんね」
 どうやらこの本丸にまだ刀剣男士さんが少ない頃は、小さなお風呂に順番に入っていたらしい。
 どうかなとキラキラした目で言う審神者さんに、私は頷いて承諾したのだった。

 それから夕飯を食べて、お風呂に入った。
 立て札を立てて、脱衣所で服を脱ぐ。先に体を洗ってしまってから、大きな湯船に浸かった。湯船は銭湯ぐらい大きく、しかも露天風呂のようになっていた。目の前に広がる景色はこの本丸の景色ではなく、審神者さんの霊力で作られた仮想世界なのだとか。風まで感じるこの仮想世界の季節は、本丸と連動しているらしく、夜の初夏らしい僅かにひんやりとした空気が漂っていた。
 少しすると審神者さんがやって来て、私と同じように体を洗ってから湯船に浸かった。隣に並んだ審神者さんは、ふうと息を吐いて極楽極楽と楽しそうに言った。
「いい湯だねえ。うん、景色も拘ってよかった! 」
「こだわったんですか」
 そうだよと審神者さんは景色を見ながら言った。
「お風呂でリラックスして、きちんと疲れを癒してほしかったからね。ただ、ちょっと拘りすぎて細かい調整が必要なんだけど」
「調整? 」
「そう。たまに霊力を注いで調整しないと季節が狂ったりしちゃうの」
 だからたまにこうやってお風呂に入ったり、掃除の間に来たりすると笑った審神者さんは楽しそうに言った。それがなんだか面倒なように思っていると、直ぐにそれを見抜いたらしい審神者さんが頭を横に振った。
「面倒じゃないよ。刀剣男士のみんなは戦場で戦ってるからね、これぐらいどうって事ないの」
 そういうものかと私は浅く頷いて、景色を眺めた。初夏の夜、まるで本当にそこに自然があるかのような景色は審神者さんの気遣いで出来ていた。

「審神者さんは真面目ですね」
 そう言えば、審神者さんは目を丸くしてから苦笑した。
「私は全然真面目じゃないよ。仕事を溜めがちだし、だらしない方。でも、そうだね、大事なところはしっかり真面目にしてるつもりかな」
 みんなの事を大切な家族だと思って、真面目に向き合っているつもりだと、審神者さんは笑っていた。

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