09

夢主視点


 町から帰ると夕方になっていて、準備されていた夕飯を食べた後に審神者さんは仕事に戻り、獅子王さんと愛染さんは私の夜のランニングにつきあってくれた。

 そうして次の日。今日は愛染さんが私の世話係となってくれて、何をしようかと言いながら私の腕を引いて歩いてくれていた。そこでちょうど台所の前を通りかかると、一寸と声がかかる。呼ばれた愛染さんが顔を覗かせれば、中には燭台切さんがいた。
「おやつ作りを手伝ってくれないかな? 」
 どうやら今日はたまたま人手が足りないらしい。私を見上げる愛染さんに、私なら居間で過ごしていますと言えば、悪いなと言って私を居間に案内してから燭台切さんの手伝いへと向かった。

 居間には先客が二人いた。この本丸の刀剣男士さんだから客でないけど。
「あ、ヒカルさん! 」
 こんにちはとピンク色の髪を揺らして挨拶をした刀は秋田藤四郎さん。その隣で無言だけどぺこりと頭を下げたのは小夜左文字さんだった。
 隣どうぞと言われてちゃぶ台の前に座れば、秋田さんは楽しそうにおやつの話を話し始めた。
「今日のおやつはほっとけーきだそうです! 前にもおやつになったのですが、ふわふわで美味しいんですよ」
 ふへらと柔らかく笑う秋田さんはどうやらホットケーキが好みらしい。その前で頭を縦に振って同意を示す小夜さんもどうやらホットケーキが好みなようだ。
 ヒカルさんはホットケーキはお好きですか。そう問いかけられて、私は首を傾げた。しかしすぐに秋田さん達が同じように首を傾げるので、私は口を開いた。
「嫌いではないです」
「あまりお好きではないんですか……? 」
「そういう訳ではないのですが。秋田さんと小夜さんはホットケーキが好きなんですね」
「はい! 」
「……うん」
 小夜さんが初めて言葉を発して頷くので、本当に気に入っているのだなと感じた。妹の中に甘味が好きなのがいた筈だから、彼女とは話が合っただろうにと思う。私は味について特に好きも嫌いもないが、ホットケーキは焦がしてしまうので作るのが苦手だ。
 秋田さんは嬉しそうに、いい匂いがしてきましたと笑う。小夜さんは体を左右に揺らして待ちきれなさそうだ。皿を運ぶぐらいはできるから、台所に手伝いに行こうかと立ち上がりかけたところで出来たよと燭台切さんがお盆を持って現れた。
 盆の中には三つの皿、ホットケーキが乗ったそれに数が足りないと思っていると、愛染さんがまた一皿持って現れた。燭台切さんはホットケーキをみんなに配るらしく、愛染さんは四人で食べようと明るく笑っていた。
 四人でちゃぶ台を囲み、ホットケーキに蜜を垂らす。蜜は砂糖をほんの少し焦がしたキャラメルソース。バターにかければトロリと溶けて、ホットケーキに染み込んでいく。
「いただきます! 」
「……いただきます」
 愛染さんと秋田さんが元気よく挨拶をして、小夜さんが控えめながらもしっかりと挨拶をする。私も遅れて挨拶をしてホットケーキにフォークを刺した。表面はさっくりと、中はふわふわと。そんなお菓子を口に含めばほんのり香るキャラメルソースがわずかに主張した。
 美味しいと顔を明るくする三人は夢中でホットケーキを食べていたが、ふと愛染さんが私を見上げた。
「ヒカル、美味しいか? 」
 まっすぐに向けられた視線に、私が黙って頷くと、彼はそうだよなと笑って食べるのを再開した。

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