08

夢主視点


 町を歩いていると、様々な露店に審神者の黒さんは目を輝かせた。買い物は好きなのと、黒さんは言う。その後ろで獅子王さんが仕方ないなと笑ってて、愛染さんは私の隣で黒さんのように目を輝かせていた。ふと立ち止まった愛染さんの視線の先には和菓子屋さんがあって、どうやら季節のお菓子を見ているようだ。
「アジサイだ! あの橙のはなんだ? 」
「杏子って書いてあるじゃねえか」
「あ、ほんとだ! 」
 美味そうと言う愛染さんは、買おうぜと黒さんに強請る。どうしようかなと悩む黒さんに、獅子王さんが今食べる分ならいいんじゃないかと言った。
「人数分を買うだけは今持ってねえから、ヒカルと愛染と主が食べればいいって」
「え、獅子王は? じじいだからいらないの? 」
「じじいって言うな。俺はそれよりみたらし団子がいい! 」
「結局食べるのかよ! 」
 愛染さんのツッコミが飛び出したところで黒さんは杏子の和菓子を三つとみたらし団子とお茶を注文した。
 近くにあった飲食スペースの、赤い緋毛氈が掛けられた長椅子に座って、まず最初に愛染さんと黒さんがお菓子にかぶりついた。美味しいと明るい顔をする二人に急かされて私も口にお菓子を運ぶ。一口食べれば中心部にあった杏子の餡がとろりと口の中に広がった。
「美味しいか? 」
 獅子王さんに言われたので、私は咀嚼した後にごくりと飲み込んでから頷いた。

 お菓子を食べ終えると黒さんの本来の目的地へと向かった。どうやら使っている万年筆の調子が悪いので、そのメンテナンスらしかった。古ぼけた店に入り、黒さんと獅子王さんが店主に修理を頼んでいる。その後ろで愛染さんが、なあと言った。
 どうしたんですかと声をかけると、愛染さんは目の前の張り紙に釘付けだった。何かのポスターかと思って見ると、そこには大々的に祭の字が見えた。
「もうすぐ祭りやるんだな! 」
 行きたいとはしゃぐ愛染さんはヒカルも行きたいだろと言った。そういえば、祭りなら友人たちが好きだったなと思い出した。
 万年筆を預けたらしい黒さんと獅子王さんがこちらに来て、張り紙を見てなるほどと頷いた。
「愛染は祭りが好きだね。よし、この日はこのお祭りに行こう! 」
「そんな適当に決めていいのか? 」
「いいの、いいの。みんなの息抜きになるし、何よりヒカルちゃんとの思い出になるじゃない」
 ね、ヒカルちゃんと、黒さんが言う。私はそうですねと頷いて、再び張り紙を見た。日付からして当日はほんの数日後。よく晴れるだろうから、刀剣男士さん達の息抜きというのに丁度良いのかもしれない。
 黒さんは嬉しそうに決まりだねと頷いて、万年筆の修理が終わるまで町を散歩しようと私たちを店の外へ連れ出したのだった。

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