turb♀こちら刀剣女士寮です!

寒椿

こちら刀剣女士寮です!/寒椿/小豆♀+姫鶴+五虎退/あまり女士らしい表現が無いですが、女士のつもりで書きました。


 季節は冬。雪景色の本丸に、帰還した部隊がひとつ。ばたばたと騒がしくなる本丸の門を、隊員である一振りが、報告の全てを隊長の大和守に任せて、足早に進んだ。
 真っ直ぐ厨に着いた彼が、大きく深呼吸して、声を発する。
「あつき、腹減ったあ」
「おや、姫鶴。おかえり、かいだしでの、おみやげがあるよ」
「あつきのお手製すいーつがいい」
「まあそういわずに、ほら」
「……せんべい?」
「謙信たちといっしょに、えをつけたんだよ」
「まじか」
「だめだったかな?」
「いや、これがいい。俺のためでしょ」
「うん」
「これがいい!」
「うん、そうだね」
 ちなみに山鳥毛はさいしょにせんべいをやいたんだよ。そんな小豆の言葉に、姫鶴はそりゃ大役だったねと笑みを浮かべた。

 煎餅と、あられ。小豆が、所謂上杉組の中で一振りだけ出陣していた姫鶴のために用意したお土産に、姫鶴は頬を緩ませる。ことことと、五虎退が茶を淹れた。僕も描いたんです。五虎退は控えめに笑う。
「絵心は、ないんですけど」
「よく頑張ったんだね」
「は、はい!」
 えへへと笑う五虎退から茶を貰う。小豆は厨番と宴の打ち合わせだ。今晩は宴をすると、審神者が早朝に何やら年度末の仕事を終えた顔で宣言した故である。
 まだ年度末までは時間がある。だが、早めに行動した審神者は褒めるべきだろう。宴で英気を養えるならそれに越したことはない。燭台切や歌仙、小豆や大包平といった厨に出入りする刀は腕によりをかけると燃えていた。
 今は女士寮に客人は来ておらず、長期遠征や特命調査もない。全刀が本丸屋敷に揃っているタイミングは実は珍しいので、宴には丁度いいというのもあった。
 審神者のことなので、実はタイミングを伺っていたのではないか。姫鶴は穿った見方をしたが、同じ顔を日光がしていたので、考えるのをやめた。そういうのは、日光の方がずっと向いている。
「あの、今日の宴の関係で、景趣を夕方に変えるそうですっ」
「あ、そーなの?」
「はい。それで、希望の景趣を紙に書いて提出となっていて……これが姫鶴さんの紙です。筆記具はこっちにあって、」
「ん、書くよ」
 何がいいか。姫鶴はううむと外を見た。とある時代の日本と連動しているという今の本丸の景趣は冬である。春が恋しい。しかし、無理やり春の景趣にするのはどうかしている、かもしれない。
 ならばと、椿の景趣がいいと、大雑把に書いて、紙を折る。折るとは、祈りだ。ふわりと浮かんだ折り鶴が、ぱたぱたと審神者の元に飛んでいった。
 これで良し。満足して、戸を閉める。そうして、姫鶴は煎餅と茶を楽しむために、五虎退と机を囲んだのだった。


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