turb♀こちら刀剣女士寮です!

あの刀身を忘れない

こちら刀剣女士寮です!/あの刀身を忘れない/大包平♀+獅子王♀/他本丸骨喰♀も出てきます。未実装刀剣の話題が出てきます(特に捏造はないです)


「大包平」
 ひらりと細い手が大包平を呼んでいる。男士よりも細く、どこか丸く角が取れたそれはひどく魅惑的だが、どうにもこうにも大包平とて同じなのだ。
「獅子王、どうした」
「夜食にスープでも貰えるか?」
「構わんが」
 長い髪を束ねながら、一体どうしたと聞くと、女士の獅子王の後ろからひょっこりと小柄な女士の骨喰が顔を出した。
「腹が、減って……」
「あと、冷えたってさ」
「なるほどな」
 少し待て。そう言うと、女士の大包平はせっせと卵スープを作り始めた。

 女士寮の厨番は大包平と小豆である。客人が講習に来ている時など、どちらかが必ず厨に居るようにシフトを組んでいる。女士となると、男士と違った感性を持っていることも稀にあり、今回の骨喰のように、腹を減らしたことを恥ずかしがってうまく伝えられなかったりする。さらには厨の使い方もまだ覚えていないことが多々あるのだ。
 よって、厨を空にはできない。

「卵スープだ」
「……この透明な糸は何だ?」
「春雨だ。これなら適度に腹に溜まる」
「お、それ美味いぜ。ほら、箸はこれ」
「あ、ありがとう……」
 ふうふうと熱を冷ましながら骨喰はスープを食べ、飲む。獅子王はそれを微笑ましく眺めていた。

 やがてスープを食べ終えてうつらうつらし始めた骨喰は、すぐ近くの客間で寝た。後片付けをしていると、獅子王が手伝うぜとやってくる。ただでさえ女士寮の女主人としての仕事があるだろうにと言えば、まあそんな気分もあるよなと笑われた。

「骨喰には、少しだけ、思い入れがあるんだ」
「特に所以があった覚えはないが」
「おう。まあ、名前が似てるってだけ。俺のさ、昔の知り合いに骨食っていう刀がいたんだ」
 あいつの刀身を今でも思い出すぜ。獅子王が微笑む。大包平は唯、そうかと口にした。
「俺も忘れられない刀がいる」
「大包平も?」
「面影と言うんだが、本丸に来るかは分からん」
「そっか」
 お互い様だな。獅子王が蛍光灯の下で、きらきらと髪を輝かせて、物憂げに笑っている。ああ、この刀も長くを生きた刀だった。元来、戦場には出ない刀だった。大包平はきゅっと胸が締め付けられる気持ちがした。

 これを人は同情と呼ぶのだろうか。そんなのは、酷すぎる。
 だって、そう云うには、大包平も獅子王も、永くを生き過ぎた。

「明日は骨喰の講習の続きがある」
 道場で体を動かすんだ。その甘やかな声に、大包平は使用許可は申請してあるんだろうなと息を吐いた。


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