膝丸+大包平♀/きみが一番美しい!/大包平さんだけが刀剣女士の本丸の話/機能性を重視して男装しているけれど、女性らしい服装も気にならないわけじゃない大包平さんの話


 大包平は女性用の衣服を好まない。だって、刀剣として刀を振るう時に邪魔だから。
 それが、この本丸の刀剣男士達の認識だった。


 女性型の刀が所属していることを聞いた膝丸は、そういうこともあるのかと、さして気にしなかった。
 刀の付喪神であり、審神者の呼びかけに答えて顕現したのなら、何の問題もない。
 顕現したての時に意見を乞われ、そう答えた膝丸に、審神者は安堵した様子だった。どうやら、刀によっては女性型の刀剣男士を苦手とすることがあるらしい。膝丸はそういう刀ではないのだねと言われて、おそらくはと答えた。

 膝丸が実際に件の刀の姿を見たのは、髭切と会話していた時だった。次の出陣の予定を立てたい。髭切の名を呼び、そんな風に言いながら、源氏兄弟の部屋を訪れたその刀剣女士に、膝丸は思わず動きを止めた。
 傷一つない白い肌。短い髪は深い赤。桜貝の爪先と、淡い色味の唇。長い睫毛が飾る目は、鋼の色をしていた。服装は戦装束から鎧を外しただけのようだ。
 髭切が、こっちは弟だよと笑うから、膝丸はようやく自己紹介をした。彼女は嗚呼と反応する。
「俺は大包平だ。よろしく頼む」
 凛とした声でそう自己紹介をしたかと思うと、大包平はすぐに出陣の打ち合わせを、髭切と始めたのだった。


 それから、膝丸の強化月間と題して、急激な練度上げが始まった。度重なる出陣に膝丸は歯を食いしばって耐えた。癒やしは髭切や今剣達との会話だったが、たまに部隊を共にする大包平もよく気にかけてくれた。出会いは淡々としていたが、それなりに新人として気にかけてくれているらしいと、膝丸は気がついた。
 そうこうしていると、いつしか大包平と膝丸は本丸の先輩後輩兼友人のような関係に落ち着いていた。

 だから、大包平が買い出しに行くと聞いて、自分も買いたいものがあるのだとごく普通に同行を願い出たのだった。

 万屋街で互いの買い物を終えると、ふと大包平が足を止めた。そこは女性用の衣服を扱う服屋だったので、足を止めただけで入ろうとしない大包平に、膝丸は首を傾げた。
「入らないのか?」
 そう問いかけると、大包平は少し迷ってから、いいんだと頭を振った。
「刀として、あんなひらひらとした服は非常時に困るだろう」
「ひらひらに関しては、それよりも動き辛そうな服装の刀剣がいるだろう」
「それはまあ、そうなんだが。正直に言うと、ただ、俺が着慣れていないんだ」
 戦装束も男装のようなものだったしと呟く大包平に、膝丸はそれならと言った。
「それこそ、練習すれば良いだけではないのか? 着たくないのなら、それでいいのだが」
「着たくないわけではない」
「気恥ずかしいということか?」
「ああ、それもある。最初に審神者から私服として提案されたのだが、動き辛そうだと拒否してしまって……今更、言えないだろう。それに、今の男装だって別に嫌ではない」
 だからいいんだと言う大包平はどこか寂しそうで、膝丸はふむと考えてから、それならと日付を思い出す。そろそろ、膝丸が顕現してから一ヶ月が経った。
「では、俺の顕現一ヶ月記念ということで、どうだろうか?」
「は?」
 大包平が鋼色の目を丸くする。俺は記念品は何でもいいのだろうと首を傾げた。
「俺は、大包平との写真が欲しいぞ」
「はあ?!」
「駄目なのか?」
「駄目ではない! だが、それは記念品にならないだろう」
「しかし、他にさして欲しいものもないのだが」
「きょ、兄弟で揃いの湯呑みとか」
「既にある」
「親しいものとの旅行とか」
「まだ本丸の中でも行き慣れない場所があるのだぞ?」
「茶器とか一人部屋とか!」
「茶器に興味はないし、一人部屋も別にいらないのだが」
「~~!」
 顔を赤くする大包平に、どうしたのだろうと思いながら膝丸は言う。
「俺はきみとの写真を部屋に飾れればそれで良いぞ」
「あー! もう! わかったから、やめろ! 口を閉じろ!」
「む?」
 靭やかな腕が伸び、柔らかな指先が唇に触れた。思わず口を閉じると、大包平はぎっと睨む。
「着替えて写真を撮ってもいい。だが、部屋には飾るな!」
 仕舞っておくなら良いと言う大包平に、そうかと俺は頷いた。

 女性の服を取り扱う店に入ると、店員らしき女性に訳を話し、あれやこれやと服を差し出されて大包平が着せ替え人形となる。旦那さんもちゃんと協力してくださいねと店員に言われた膝丸は、旦那ではないことだけは否定していた。
 時折店員に意見を求められて、膝丸は素直に答える。ワンピースに、淡い色の外套。並んで写真を取るならと、膝丸の服装に合う色合いに仕立てていた。なお、今の膝丸は戦装束によく似た私服である。
 写真館を紹介され、すっかり着替えた大包平と写真館に向かう。違和感ばかりだと言いつつつも、少しばかり楽しそうな大包平に、膝丸は良かったと安心した。先程の寂しさを滲ませた姿は、見ていて心苦しかったのだ。

 写真館で薄化粧を施され、大包平と膝丸は並んで写真を取る。婚礼用ではないのですねと何度も確認されて、大包平と膝丸は思わず笑ってしまった。そんなに似合いの姿だろうかと、大包平が写真館の支配人に尋ねると、支配人はすっかり萎縮してしまった。横綱のひと睨みだ。いくら付喪神に慣れた万屋街の店とはいえ、それはそれは恐ろしいだろう。

 写真は数日後に本丸に届くように手配し、大包平と膝丸は本丸へと帰った。道中、すっかり服に慣れた大包平が堂々と日の元を歩く姿に、膝丸はこれからも好きな服を着ればいいのにと思った。


 本丸に帰ると、出迎えた刀たちが目を丸くし、小さい子の前以外ならば普段は落ち着いている毛利藤四郎の歓声のような叫び声で、城中が蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。僕たちの大包平様がこんなに美しいと叫ぶ毛利や浦島といった池田の刀と、孫にも衣装だなと素直じゃない鶯丸の反応が対照的なのに、どちらも深い動揺が見て取れて面白かった。
 なお、後日届いた写真は主たっての希望で審神者の部屋に数日間飾られた後、膝丸と髭切の源氏兄弟部屋のアルバムに収まった。ちなみに、大包平は写真を撮った日から、好きな服装で日々を過ごすようになった。

「たまには、こういうのも悪くないな」
 とある休日の青空の元、あの写真と同じワンピースを着て笑う大包平に、膝丸は微笑みを返す。
「いつでも、きみが良いように過ごせば良い」
 何より自信たっぷりな姿が良く似合うと言われて、大包平は当然だと笑ったのだった。
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