いち♀→あい♀/温かな手のひらで
!生理ネタ!


 愛染は知識にあったが、それを見て思わず怖じ気づいた。股からどろりと経血が落ちる。きゅっと体を丸めた。きっと布団も寝間着も血塗れだ。初潮。愛染を襲ったのは、その衝撃だった。

 慌てた蛍丸と明石が、なんとかひっそりと審神者に伝えて、愛染と同じように女性の体で顕現していた一期を連れてくる。生理なら彼女も経験済みだ。安心してくださいと、愛染と同じくらい不安そうな蛍丸と明石に声をかける。
「汚れた布団と寝間着だけ洗ってもらえますか? 裏の井戸なら人が少ないですよ」
「洗ってくるわ」
「ねえ、国俊大丈夫?」
「生理は人それぞれですから、何とも言い難いよ。これから知っていこうね」
「だって、国俊。俺も国行もついてるからね」
「……ん」
 愛染は一期に抱えられて、着替える事となった。

 普段は着ないスカートは、ナプキンを替えやすいようにとの配慮だ。愛染の肉体の年頃だと初潮が来るかもしれないと、老女の審神者が事前に買っておいたのだ。膝丈のスカートはヒダになっていて、どうせならと黒いセーラー服のようになっていた。コスプレではないかとちょっと思った愛染だったが、元来からの禁欲の象徴ですよと一期と審神者が教えてくれた。
「好い人ができるまではセーラー服かな」
「そんなに気にしなくたっていいのに」
「気になるよ」
 愛染のことだもの。一期はふわりと笑った。愛染はじくじくと痛む下腹部を擦りながら、そこを見る。刀剣は基本的には孕まない。だが、生理を伴う刀剣は孕むことがあるらしい。そう思うと、ゾッとした。全く分からない未知の不安に、きゅっと一期に抱きついた。ふわりと柔らかな体は、愛染と同じ、否、大人の女性の体だ。
「大丈夫だよ、愛染」
 薬研に薬を貰いに行こうかと、一期はそっと愛染の背中を押した。

 一期の腕にきゅっと抱きついて歩く。不思議と他の刀とは合わずに、薬部屋に着いた。一期が薬研の名を呼ぶと、入りなと薬研の声がした。
「月の物の薬だろ。さっき大将から連絡があった。あー、種類と量に関わるから聞くんだが、どの程度の痛みだ?」
「じくじくする」
「出陣は無理そうか?」
「うん」
「目眩はあるか?」
「あんまり」
「貧血ではないか……一応これ使ってくれや。体に合わなければ、すぐに違うやつ渡すから、また来てくれ」
 じゃあ、お大事に。薬研はそう安心させるように笑った。

 一期と部屋に戻ろうとすると、彼女は私の部屋に行こうと言った。
「え、でも……」
「主はそうしなさいと言っていたよ」
「国行たちは知ってるのか?」
「うん。そうだね」
「じゃあ、一期さんの部屋に、行く」
「うん、いい子」
 頭を優しく撫でられて、愛染は俯いた。頬が熱かった。

 一期は部屋に通してくれると、水を用意して、薬を飲ませてくれた。愛染は言われるがままに一期の布団に寝かされる。痛みが引くまでは寝ていたほうがいい。ナプキンも寝る時用のものに替えた。
「私は同じ部屋にいるからね、安心して寝てね」
「……手、握っててくれるか」
「うん、いいよ」
 大丈夫。すぐに良くなる。一期が柔らかな手が愛染の手を撫でて、絡んだ。
「何も心配しなくていいからね」
「ん」
 優しい一期に、甘えすぎたかなと思うものの、愛染はそっとその幸福に浸りながら、とろりとした眠気に身を委ねたのだった。
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