秀徳高校1年生/私がきみに恋をするまで


 おんなのこって何だろう。

 別に、見るとドキドキするとか、声をかけたくなるとか、手を繋ぎたくなることはないのだ。ただ、隣に居ると心地良いと思えるだけで。
「恋では?」
「守部さん、それは無い」
「でも翔子がそんな事言うの、初めて聞いたもの」
 まあ、付き合いは短いけれどと秀徳バスケ部マネージャー仲間の守部さんは笑った。
 だって恋ってもっとキラキラして居るものではないだろうか。もっと毎日が楽しくなるようなものではないのか。眉を寄せながら洗濯物を干していれば、恋ってねと守部さんは笑っていた。
「決して楽しいだけじゃないんだって」
「そうなん?」
「初恋?」
「もしこれが恋ならなあ」
 それなら分からなくて当然かもと言う守部さんは、同い年なのにやけに大人びて見えて、羨ましいなと思った。ワシは前も今回も恋なんてしたことなかったから。
「いつか翔子にもわかるよ」
「せやろか」
 とりあえず洗濯物を干し終わったから、ボトルを回収してくるとその場を離れた。

 それから居残り組の練習時間になった。居残ってまで練習するのは、本当に真面目だなと思う。そして秀徳バスケ部には真面目な人が多い。その中に宮地君もいた。
「宮地君ー疲れたんなら帰りぃ」
「まだやる」
「動きが鈍いでー」
 笑いながらタオルを差し出せば、ふらりと壁際にやって来て、ずるずると座り込んだ。
 何を焦ってるのか。否、そんなのは分かりきっている。レギュラーになりたいからだ。
「今吉さんは余裕あるよな」
「そんなことないでー」
 わははと笑えば、全くと宮地君は眉を寄せる。
「俺も、」
「ん?」
「俺も早くコートに立ちてぇんだよ」
 今吉さんみたいに。そう続けた宮地君に、ウチはコートには立てんよと苦笑する。立てるものなら、立ちたいが、女子である今では女バスに入らねば厳しいだろう。
「焦ってもええけど、変な無理はしたらあかんで」
「……焦ってもいいのか」
「焦らんなんて無理やろ」
 にっこりと笑みを浮かべれば、確かにと宮地君はははっと笑った。その顔と雰囲気に、ああ、と思った。
(好きやなあ)
 考えてから、ハッとする。思わず口元に手を当てる。どうしたんだ、と宮地君が顔を上げた。
「……いや、別に」
「そんな顔じゃねーけど」
「ただ、」
 もしかしたらキミの勝ちかもしれんな、なんて。


 おんなのこって何だろう。

 毎日にドキドキもしないし、ワクワクもしない。でも、どうしてか安心する。
「好きだ」
 一ヶ月が過ぎようとした日、帰り道。宮地君はもう一度告白した。その言葉にワシは笑って応えたのだ。
「ウチも好き」
 ドキドキもキラキラもしないけど、ただ、キミの隣がいちばん心地良いと思えたのだ。



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