秀徳高校1年生/素直になられると困るわけで


 あれから一週間、いつもと変わりない日々が続いた。とは言うものの、家に送り届ける係に宮地が積極的に手を挙げたりして、不思議がられはしたが。
 明日は練習試合がある、金曜日。流石に強豪なだけあって練習相手には困らないんだなあと、少しだけ羨ましく思った。まあ、今のワシは秀徳生なわけだが。
「明日、今吉さんも来るだろ」
「行くでー。言っとくけど手作りの差し入れとかは作らんからな」
「心を読むのやめろ刺すぞ。あー、じゃなくて、明日迎えに来るから」
「は?」
 行き先は一緒なんだからいいだろと言われて、ワシはまあ問題は無いがと眉をひそめた。
「学校集合やし、別に迎えに来てもらわんでも」
「俺が迎えに来たいんだよ」
「お、おう、ツンギレはどうしたん?」
「茶化すな轢くぞ」
「わー、最早それないと安心せんわ」
 わははと笑えば、全くと宮地はため息を吐いた。
「とりあえず朝迎えに来るから、待ってろよ」
「ん、ありがとさん」
 ほんなら待っとるわとワシは手を振った。


 次の日。朝。
「はよ」
「おはようさん」
 ホンマに来たと思いながら、荷物を持って部屋を出る。準備はいいかと言われて、バッチリとワシは笑った。
「ほな行こか」
「おう」

 今回の練習試合は格下の相手とはいえ、油断はできない。なぜなら、今回も一年生が多く起用されたからだ。ワシはいざという時の切り札として戦略案を提示する許可をもらい、1年PGの和田とハンドサインの最終チェックをした。
 なお、この試合には宮地たち三人は出ないことになっている。怪我など緊急の時以外はコートに立つことはない。その点、和田が起用されたのはワシの戦略を使うためだろう。彼はよくワシの指示を汲み取ってくれるからだ。
 試合は順調に進んだかと思われた。しかし途中で一人が足首を捻ってしまう。監督が直ぐにベンチに下がらせ、ワシがマネとして様子を見る。軽く捻っただけだが、今日の試合は無理だろう。後遺症なんかが残るような怪我とちゃうよと励まして、ワシは交代で大坪君がコートに入ったのを横目で確認した。
 大坪のプレイは一年生現在、まだ出来上がっていない。今の状態ではとてもじゃないが勝利への一手にならないだろう。ワシは監督に許可を得て、応援を装って和田を呼ぶと指示を始めた。相手に気がつかれぬように指示を飛ばす。より効果的に力のある選手にボールを回し、危険な選手の精神を折るつもりでマークしていく。そうしていると、まるで自分が試合に参加しているような錯覚がして、自然と笑みが浮かんだ。楽しい、と思えた。
 試合が終わった時、宮地君がワシの背中をポンと押した。どうしたんと振り返れば、おつかれと言われた。
「ウチはなーんもしとらんよ」
「そうかよ」
 でも、と宮地は笑みを浮かべた。
「相変わらずえげつねえけど、やっぱり好きだって思った」
 その時、木村君が宮地君を呼んだので、彼はコートへと挨拶に走っていく。ワシはそれをぼんやり見ながら、サッサと片付けしようと行動を始めた。

 えげつないけど、好きだってなんやそれ。そんな風に高鳴る胸は、試合で興奮したからだと言い聞かせた。



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