秀徳高校1年生/一ヶ月戦争


「好きだ」
 ぽろりと零された告白に、ワシは頭が真っ白になった。

 それはいつも通りの練習が終わった頃。合唱大会はワシのクラスが無事優勝し、皆で打ち上げも行い(ワシは早めに上がらせてもらったが)、久々に自分で勝利を掴んだ気がして少々気分が良かった。それからいつも通りの日常が戻り、ワシは生徒会とバスケ部のマネ業、そして戦略の提案に精を出した。
 そんないつも通りの部活漬けの日が続いていた、夏の日。帰り道。ギリギリ夕日が辺りを照らす、もうほとんど暗くなってしまった道路で、送ると言ってくれた宮地君が立ち止まったなと思ったら、冒頭に戻るわけである。

「……はい?」
「合唱大会の時の今吉さんが頭から離れねえし、いつも通りマネしてるのも、目で追っちまう。ハッキリさせてえわけじゃない。ただ、今吉さんが誰かのモノになるのかと考えると、相手を轢きたくなる」
「ちょ、ちょっと待ちぃ」
 続け様に吐いていく恋愛感情の愛の言葉に、ストップをかける。え、こいつ今なんて言った。
「好き? 誰が?」
「それぐらいわかんだろ」
「いや、聞き間違いかも……」
「今吉さんが好きだ」
「うわぁ」
 なんだその反応はと眉を寄せて不機嫌そうな宮地君に、いやなあとワシは腕を組んだ。
「ウチ、これっぽっちも意識したことあらへんのや」
「……マジか」
「おう、マジや。まあ、誠心誠意を込めて告白したっちゅうのは評価したるわ」
「何様だよ」
「今吉翔子様や。ってあー、そうか。ウチ、女だったわ」
「女子だろ?」
「うん、そうやったな」
 見た目も、この世界で生きてきたのも、全部全部、今吉翔子なのだ。女の子で、女性で、いつか男性と結ばれるような、普通の女。ああ、一度も考えなかった自分がバカではないだろうか。
「とりあえず、ウチはモノやないから誰のモノにもならんよ」
「……」
「そういう悲壮な顔せんの。だから、考えてみるって話や」
 考えるって、何をだ。宮地が噛み締めていた唇を開く。だから、とワシは笑ってみせた。

「お試しならええんとちゃう?」
 期間は一ヶ月。
「ウチをオトしてみい、宮地君」
 ワシが女の子として男の子を好きになれるか、なってもいいと思えるか、全てはキミの一ヶ月で勝負しようと。



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