宮今√/合唱大会2/秀徳高校一年生


 そして来たる合唱大会当日。晴天のその日。衣装は制服のままだが、先生に許可を取ってネクタイやリボンの色を合唱曲に合わせた鮮やかな青色に変えた。校則の厳しい秀徳でこの提案が通るとは思わず、許可をもぎ取った先生に皆が拍手した。
 ワシのクラスは二番目に歌う。最初のクラスの合唱中に舞台の裏手で待機することになっているので、薄暗いそこでクラスメイト達と最後の打ち合わせをしながら順番を待っていた。少し緊張して深呼吸をし、指揮棒をきゅっと握る。大丈夫やろ。出来ることはしたんだからと言い聞かせるように呟けば、クラスメイトかつワシを指揮者にした林田さんがにっこりと笑った。
「大丈夫だよ」
「言い切るなあ」
「だって今吉さんあんなに頑張ってたしさ」
 音が止まった。さあ、順番。光に満ちる舞台を見る。前のクラスが引いていく。
「さあ、行こう!」
 そう目を細めた林田さんに、ワシはああそうだと頷いた。
「やってやろうやないか」
 ワシは胸を張って舞台へと踏み出した。


………
【宮地視点】


 次が今吉さんのクラスだな、木村がそう言った。指揮者をやるらしいと言えば、何だか似合う気がするなと木村が不思議そうに言ったので、そうだなと同意した。
 最初のクラスが舞台から退き、すぐに出てくるのは見かけない生徒たち、今吉さんはと探せば、すぐに彼女が舞台へ出てきた。真っ直ぐに前を向いて、細めた目は誰かを射抜くみたいなのに、口元には自信ありげな笑みを浮かべて。黒い髪を揺らして一番手前に立つと、皆の位置を整えてからこちらを向いて頭を下げた。拍手が起こる。俺も手を叩いた。そうして上がってきた頭、その目が合った気がした。と思うと、彼女はくるりとこちらに背を向け、ピアノを弾く生徒を少し見て指揮棒を構えた。そして柔らかな動きで腕を動かし始める。彼女の動きに合わせて生徒たちが歌を紡ぐ。ピアノの軽快な音と、楽しそうな生徒たちの歌声。今吉さんは柔らかな動きに強弱をつけて、何よりいつもより楽しそうな笑みを浮かべて指揮棒を振り続ける。その顔はどこかで見たことがあった。そう、その顔は俺たちのバスケを見てる時の、否、PGに指示を飛ばす時の心底楽しそうな顔に似ていた。
(綺麗だ)
 そう思った。とにかくその瞬間、ライトに照らされて動くたびにわずかに見えるその笑みが何より彼女らしく見えて、世界で一番綺麗な瞬間だと思った。みゆみゆの可愛らしさとは違う、するりと心に入り込むような、鋭いのに柔らかな、決して派手ではない輝き。
「すごいな」
 優勝しそうだと木村が呟いたので、そうかもなと俺は同意して、指揮棒を振る今吉さんを忘れないように目に焼き付けたのだった。



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