宮今√/合唱大会/秀徳高校一年生


「合唱大会?」
 そうだよとクラスメイトの林田さんは笑っていた。
 どうやらクラス対抗の合唱大会が開かれるらしい。そこで、今吉さんには指揮者をして欲しいんだと言われたわけである。
「なんでウチが指揮者なん?」
「だって今吉さんリーダー向いてそうだし」
 私はなかなかまとめ上げること出来ないからと頭を掻く林田さんは、どうやらもう皆で話し合ってからワシのところに来たらしい。
「まー歌が得意ってわけやないからええけど、ぶっちゃけ音楽センスとか無いで?」
「リズム感覚はあると信じてるから!」
「遠回しに音痴って言うとらん?」
 そう言えば、まあまあと林田さんは苦笑した。

 かくして、指揮者つまりクラスの総リーダーをすることになった。指揮の際の手の動かし方も分からないのでとりあえず昼放課は音楽室に通い、指揮者経験の無い他の生徒たちと共に先生のレッスンを受けた。
 朝と帰りのホームルームは合唱練習に費やし、部活へは走って向かった。やるからには勝ちたいので音楽の得意なクラスメイトの意見を優先しつつ、自主練などの手を抜かずに合唱大会当日を目指した。
 そんな中、バスケ部では一年だけの練習試合があり、ワシの策を使わせてもらった。そしてそれから数日後、ワシの一人暮らしがバレて引っ越し。帰りはバスケ部の誰かが送ってくれることになった。

 もう合唱大会まで3日程。練習はラストスパートに入っていた中、今日家へと送ってくれるのは宮地君だった。
「今吉さん指揮者してんの」
「ああ、せやで。宮地君のとこの指揮者さんに聞いたん?」
「いや、廊下走り回ってるし、女子なのに男子の練習に口挟んだりしてるだろ」
 お、案外人を見ている。と少々失礼なことを考えながら、よう分かったなとワシは笑った。
「宮地君は何かリーダーとかやっとるん?」
「大坪がやってる」
「なるほどなあ」
 彼なら向いているだろうと納得すれば、宮地君はああと何か言いかけた。どうしたのかと彼を見れば、目を逸らして気まずそうに口を開いた。
「あんま、無理すんなよ」
「……珍しいな」
「おい」
「やって宮地君ってそう人を心配するキャラとちゃうやん」
「おい轢くぞ」
 ぴきぴきと怒りを露わにする宮地君におお怖とワシは笑った。
「冗談は置いとくとして、ま、無理はしとらんで」
「そうかよ」
「疑っとるな? ほんまやで」
「……家事とか生徒会とかもあるだろ」
「家事は何とか回しとるし、生徒会は指揮者やっとるって話してあるから大丈夫や。マネの仕事も守部さんが協力してくれとるし」
 キミは何も心配せんでええと伝えれば、そうかよと宮地君は何故か不機嫌そうになった。おおっとどうしたと思って考えるも、いまいちピンとくる理由が思い当たらない。どうしたものかと一旦口を閉じれば、しばらくの無言の後、宮地君が言った。
「少しは頼れよ」
「…………は?」
 思わずたっぷり10秒ほど溜めて、思わず言えば、宮地君はますます不満そうになる。
「一人で背負いすぎなんだよ。少しは周りに頼れ」
「そないなこと言われても」
「あー出来ちまうのが腹立つ。それで成績も首位キープしてんだから腹立つ刺すぞ」
「流れるように暴言吐くなあ!」
 思わずわははと笑えば、笑うなとまた不満そうになるから、ワシはごめんなと何とか笑い声を止めた。
「あー苦し。つまり嫉妬と心配が混ざってるんやな」
「撲殺したい」
「そう言わんと。素直やないなあ」
「人をツンデレみたいに言うんじゃねえ」
「それは緑間の特権、んんん。それはまだ知らんかったなすまん口滑らせた」
「は?」
「とりあえず、今だって甘えさせて貰っとるでー」
 ほら、送ってもらっていると伝えれば、これぐらいは手助けに入らないとむすくれる。しかしワシとしても何か手伝って欲しいことがあるわけでもないので、どうしたものかと思う。否、ぶっちゃけ家事なら手伝って欲しいが、選手には練習後は家でしっかり休んで欲しい。
 困ったなと思っていると、宮地君はそれならと口を開いた。
「何かあったらすぐ言えよ。何でもかんでもやってもらってばかりじゃ気がすまねえ」
「そう言われてもなあ。ま、何かあったらな」
 そう話していると家の前に着いたので、ほなまた明日と手を振れば、おうと素っ気ない返事が返ってくる。しかしさっきのデレを聞いていればとても微笑ましく感じるもので、思わずにこにこと笑みを浮かべてしまえば、さっさと家に入れと言われてしまった。

 そうして宮地と別れて家に入り、電気をつける。鞄をリビングのソファに置くと、ふうと息を吐いた。さて、やることは洗濯に掃除に夕飯作り。
「さっさと終わらせて勉強しよか」
 静かな部屋に課題曲のCDを流して、よしやるかと気合いを入れたのだった。



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