人はそれを勘違いと言う/帝光中学三年生/リクエストありがとうございます!


 球技大会である。小さな運動会とも言えるそれに、中学生の特に運動部はかなり力を入れる。正直なところ、近々開催される文化祭が気になるのでそちらに時間を割かせて欲しいと思うのは、ワシの精神年齢がもう子供ではないからだろうか。
 と言いつつ、ワシは生徒会の一員として司会役を引き受けていた。プログラムを頭に入れ、クラスや生徒の名前を言っていく。ちなみにワシは身長があるからなのか、女子バレーに出ることが決まっている。バスケも勧められたが、キセキの目が怖いので辞退させていただいた。いや、もうバスケができることはバレているのだが。

 体育館と運動場、複数の場所で試合が進んでいく。司会も午前と午後での交代を含めた万全の体制だ。そしてバスケの番がやって来た。ワシは体育館の片隅で名簿をめくりながら、キセキの面々がそれなりにバラけていて良かったと安堵した。
「今からバスケのトーナメント戦を行いますー。今年は強い選手が居るから皆さん気張っていこーや」
 がやがやと生徒達が騒がしくなる。まあ、球技大会で静かさは求めないので、構わない。しかし司会の声は聞こえる音量にしてくれとは思う。
「はいはい皆騒がし過ぎや。まだ始まっとらんからなあ。ほな最初の試合の呼び出しするでー」
 すると早速黒子がいるクラスだったので、ワシはおおと少し目を開く。
「早速バスケ部員が居るクラスやな! 黒子君頑張りい」
 しかし当の黒子が見当たらず、さてどこかと、まず一緒にいる可能性がある青峰や黄瀬を探し出して、そこから黒子を見つけ出す。日常生活ではこの方法が手っ取り早いのだ。何せ、青峰も黄瀬もその他キセキも兎に角目立つ。
「あー居った居った。黒子、ちゃんと試合せえよー。ほな、選手はコートに入ってなー」
 放送での呼び出しが終われば後は審判役達の仕事だ。さて次に呼び出さねばならないのはと名簿を見ていると、ふとやけに整った顔がワシを覗き込んだ。

「うっわ!」
「突然すみません」
 いや、ええけど。とワシは気を落ち着かせながら、ワシを覗き込んだ男子生徒、赤司を見た。いや君そんなキャラじゃないし、何より赤司ほどの存在感を持つ人物の接近に気がつかなかったのが地味に心に刺さる。こんなに目立つのに。
「随分と、」
「ん?」
「随分と簡単に黒子を見つけ出しますね」
「んん?」
 いや、ワシは別に大したことはしていない。ただ、行動パターンを踏まえて考えただけだ。
 だから、本当に大したことはしてないと言おうとして、赤司がにこりと笑みを浮かべた。しかしその目は笑っていない。
「やはり、貴女がほしい」
「言葉が足りん」
 思わずつっこめば、そうですねと赤司は楽しそうに言った。
「貴女がバスケ部に入れば、有利に事が及びそうだと思ってね」
 また考えてほしいと、それだけ言うとワシに背を向けてどこかへ行ってしまった赤司に、ワシは文字通り頭を抱えた。

(アカーン!!)
 本当に、本当に何か勘違いされている。例えばそう、黒子を見つけられる目をしている、とか。
「そういうのは鷹の目と鷲の目の役割なんやって、ワシはそういうのとちゃうし、ただの一般人……」
「あ、今吉さん何してんだ」
 ひょこりとやって来た灰崎は、審判役だったはずだ。試合はどうしたんと言えば声が低いと言われた。しかしワシに余裕がないと分かったのか、質問に答えてくれた。
「丁度交代だったんだけどよ、リョータが煩いからこっち来た」
「そうなん。あー、確かに黒子っちって叫んどるなあ」
 それでいいのかモデルと思っていれば、灰崎は気がつかないのか鬱陶しいとだけ顔を顰めてからワシを見て、とりあえず短いけど休憩しろよと言われた。
「今吉さん、女だろ。ちゃんと休める時に休めよ」
「そんなひ弱とちゃうで」
「色々やってんのは知ってる。けどやっぱ辛いだろ」
 いくら何でもやり過ぎだと言われて、体調管理ぐらい出来てると言いながらも、ワシはそれならとその場に座り込んだ。慌てた声を出す灰崎に、なあと声をかけた。
「赤司に、勘違いされとるのは、どうしたらええの?」
「いや、それは無理」
 あれは他人がどうこうできるものではないと言われて、せやろなあとしか言えなかった。



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