バグ/秀徳高校生一年生/花宮くんと今吉さんの話
作業用BGM→純情スカート(初音ミク)


「花宮ー!」
「叫ばないでください」
 走り寄るのもやめてくださいと渋い顔で言った花宮に、ワシは久しぶりやからなと言っておいた。

 場所を変えてマジバの隅。それぞれ商品を買ってからテーブルに着いた。
「で、何で秀徳に?」
「メールしたやろ」
「長文読むのダルいです」
「その次に要約したやつ送ったわ」
「え、本気で親の勧めなんですか」
「あと学校からも勧められてなあ」
 周囲を固められたと遠い目をすれば、アンタそんなこと気にするタチですかと言われた。うん、そら、無視しても良かったんやけど。
「ウチ、親に弱くて」
「それは……」
 花宮は遠い目をしてそっと目を逸らした。花宮も親に弱い。前の時に早く片親を亡くした影響は大きい。
「でもいいんですか、桐皇に未練タラタラでしょう」
「何だかんだで長文メール読んどるやん」
 けどよう考えてみいとワシは続けた。
「桐皇の面子に女扱いされたらワシのメンタルが折れる」
 流石に無理と言えば、いやどうせ大会で遭遇するでしょうと花宮につっこまれた。
「まあそうなんやけど、あ、最近のキセキがどうなっとるか知っとる?」
「俺が知るわけないでしょう」
「中学生やから大会で会ったりするやろし」
「大会で試合した程度でアンタの知りたい情報は得られませんよ」
「それもそうやな」
 自分から見に行けばいいんですよと花宮はジュースを啜った。ワシはリンゴパイを噛る。うん、パリパリしていて美味しい。
「けどなあ、あんま会いに行きたくなくてなあ。なんか、妙に気に入られて」
「誰に?」
「主に赤司」
「ああ」
 何してるんですかと白い目で見られて、ワシも分からんと返しておいた。
「ウチ、特に何もしとらんのやけど」
「何かしたんでしょう」
「気に入られるようなことは思い当たらん」
「どこでルート間違えたんですか」
「最初からバグっとる」
 この会話何回目やろと遠い目になれば、現実を見てくださいと言われたので脛を蹴っておいた。
 痛みにプルプルしている花宮を見ながら、ワシはそういえばと言った。
「そういや、高校どうするん? 霧崎?」
「一番やりやすいんで」
「なるほどなあ」
 ワシも男やったら桐皇に行ったんやけどとぼやけば、ふはと笑われた。その勝ち誇った笑みをやめえと言いながらポテトを食べた。
「今度は負けないつもりなんで」
「お、言うなあ。ウチも負けへんで」
「……秀徳とは会わない筈ですが」
「何が起きるか分からんやろ」
 ワシが女やしなと笑えば、自虐ネタは面倒臭いですよと言われた。別に自虐ネタとちゃうし。
「マジでバグっとるから本当に何が起こるか分からへんで」
「まあ、それもそうですね」
 気をつけますと言った花宮に、そうしときと伝えておいた。



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