おさそい/秀徳高校生三年生/記憶無し幼馴染くん達と今吉さんの話
作業用BGM→サブリナ(家入レオ)


「は?」
『だから、ケンちゃんとチーちゃんがこっちに帰ってくるから、ショウちゃんも実家に帰ってきて遊ぼう!』
 俺の家でねと電話口に笑った由孝君があまりに嬉しそうだから、ワシ盆休みは用事あんねんけどとは言えなかった。

 結局、監督さんや皆に盆休みに帰省すると話したらいいから帰れと言われ、短い休みをもらってから、ワシは東京の実家に帰ってきた。
 母や父や妹に挨拶し、すぐに隣の由孝君の家へと向かった。相変わらず立派な日本屋敷だと思いながら呼び鈴を鳴らせば、はいと由孝君が駆けてきた。
「いらっしゃいショウちゃん! ていうか久しぶり!」
「オフで会うのは久しぶりやな」
「練習試合とか、あと部活後に突撃したりしてたからね!」
「キミはもうちょいウチの家に来る頻度を減らした方がええで」
 体が持たんやろと言えば、ショウちゃんが優しいと何故か涙ぐまれた。どうやら、いつものナンパ癖でナンパした女の子に冷たくされたらしい。いや、運命に釣られる女の子はそうそう居らん。
「千尋君と健介君は居るん?」
「チーちゃんは来てるよ!」
 相変わらず影が薄くて、気がつくと見失ってるんだけどねと苦笑した由孝君に、あれはどうしようもないわと言った。そして由孝君の案内で客間に通してもらう。
 客間には読みかけのラノベと緑茶。その辺にいるのかと察すれば、ようと斜め前から声をかけられた。
「わ、千尋君、久しぶりやな」
「久しぶり。翔子さんは相変わらずモブに見せかけたラノベヒロインしてるのか」
「いや、ラノベヒロインはしとらん。誰にも恋しとらんからな」
「恋だけがラノベではない」
「いや、そらそうやろけど」
「とりあえずお茶とお茶菓子持ってくるね!」
「ああ、ありがとさん」
 由孝君を見送ってから、適当に机を挟んだ千尋君の前に座り、今は何を読んどるんと問いかける。スッと差し出された本の表紙を見れば、タイトルは聞き覚えのないものだった。つまり、千尋君のいつものお気に入りではない。
「新しいの読んどるんか。絵、かわええな」
「絵だけじゃなく、中身もかわいいヒロインだ。割と当たりだな」
「そら良かったなあ」
 そこでお茶とお菓子持ってきたよと由孝君が客間に戻ってきた。
 久しぶりに正座しながらゆっくりとお茶を飲む。由孝君はケンちゃんが来たらボードゲームしようと言い、翔子さんにボロ負けするぞと千尋君に本を読みながら言われていた。まあ、確かにワシは心理戦とか作戦練るのが得意やけど。
「ボロ負けはせんやろ」
「翔子さんの頭脳は年を追うごとに磨かれてるからな、無理」
「なんやそれ」
「ショウちゃんホント強いよねえ。ねえねえ、今からでも海常こない?」
「スカウトは結構ですー。というかウチはただのマネさかい、大層なことは出来ひんよ」
「えー、秀徳の有能マネの噂、たまに聞くよ?」
「俺も赤司から聞いたな」
「初耳なんやけど」
 赤司がお前を欲しがってたぞと千尋君に言われ、いや無理とワシは頭を振った。さすがに赤司の仕切るバスケ部に入るとか難易度高すぎて無理。
「ショウちゃんキセキと面識あるんだよねー。あ、もしかしてキセキの情報とか筒抜け?」
「いや、ウチはキセキより先に卒業したし、詳しくは知らんよ」
「その割には黄瀬がたまに今吉さんが居ればなとしょげてるんだけど」
「そういう時は幼馴染の灰崎と喧嘩した時やから、そっとしとき。連絡先渡しとるから、あんま酷い喧嘩したら電話くるやろ」
「え、幼馴染とかいるの?!」
「女の子か?」
「はいそこナンパ癖とラノベネタに食いつくのはやめえ。灰崎君は男や」
 ええと不満そうな声を出す由孝君と、フラグかと思ったのにとこちも不満そうにする千尋君の二人に思わず笑ってしまいそうになる。昔から興味のあることに一直線で、分かりやすいなあと昔と変わらないことが嬉しかった。
「うちの紫原も今吉さんがいたらなあってたまに言ってるぞ」
「紫原が? って健介君やん」
「わ、いつの間に!」
「ついにお前も影が薄くなったのか」
 おばさんに連れてきてもらっただけだと健介君は机に着いた。お茶とお菓子はおばさんが持ってきてくれたようだ。
「あいつたまにそんなこと言うから思わず口閉じて話を聞いちまうんだけど、恋バナしたいつってた」
「恋バナって、ああ、身長の話やろか」
「背の低い子に怖がられるとか、付き合うなら背の高い女の子がいいとか、お菓子食べても怒らない人がいいとか」
「それ大体ショウちゃんのこと言ってない?」
「ウチでもさすがに食べ過ぎやと思うわ」
「でも怒らないんだろう」
「そら、それぐらいで怒ってたらウチの気が休まらん」
「でも好きとかじゃなくて恋バナがしたいらしいぜ」
「訳が分からん」
 ため息を吐けば、由孝君が気を取り直すようにとりあえず皆が集まったからボードゲームしようと、あらかじめ用意していたらしいボードゲームの箱を戸棚から取り出したのだった。



- ナノ -