恋バナ/帝光中学三年生/お題箱へリクエストありがとうございました!


 サクサクサク。そんな音を立ててまいう棒を食べ続ける少年に、ワシはエンカウントした。
(うっっそやろ紫原やないかーい!)
 たまには屋上ではなく中庭でお昼を食べてみるかと一人で中庭に来たらコレである。なお、中庭にはなかなか人がいたが、紫原の周りだけ見事に人がいない。つか一年でもうこんなにデカイんか。さすがは未来のトトロ。
 それにしても、お昼を食べるなら紫原の近くしかもう空いてない。さすがに直射日光は辛い季節なので日向はアウトとして、日陰のど真ん中で無心で菓子を食べている少年の近くしか食べれるような場所はない。他の日陰は他の生徒がいるのだ。
 教室まで戻るかと思ったのだが、ふと紫原が一人な事に気がついた。なんだかんだでキセキの仲間のところに行ったりしそうなものを、なぜ一人で菓子を食べているのか。ていうかお弁当はどうしたのか。選手としてそれはどうなのか。
 そうしてパッと考えた結論は、そっとしておこうという何とも言えないもので。ワシはさっさと中庭から出ようとして、ふらりと、視線に気がつく。紫原の目がこちらを向いていたのだ。そこでワシは気がつく。曲がりなりにも、ワシはこの学校では、なかなか知名度の高い変人であった事を。
「今吉さんだー」
「……せやな」
 諦めて返事をすれば、こっち来ないのと言われる。仕方なく近寄れば、何やらじろじろと見られる。何だ何だと思いながら、とりあえずお昼ごはんを食べようと弁当を小さなカバンから取り出せば、今吉さんってさあと紫原は口にした。
「背、高いよねー」
「……は?」
 確か、ワシの身長は170ぴったりだ。女子の中でわりと頭一つ分デカい。でもまあ女子だからこれ以上は伸びないだろう。しかしまた何でそんなことをと思っていると、俺さあと紫原はぼやいた。
「身長高い子と付き合いたいんだよね」
「……ん?」
 そう思うでしょと話題を振られて、あ、これ告白とかじゃないよかったと安堵しながら、せやねと返す。
「身長低いのも可愛いと思うけど、自分より背の高い彼氏がええなあ。紫原としてはあんま小さい子はあかんの?」
「だって潰しちゃいそう」
 女の子って細いし、と紫原はポテトチップスの袋を開く。うん、まあ、分からなくもないが。つか何でこいつワシと恋バナしとるんや。
「いくら紫原でも潰れはせんやろ」
「そうかなー」
「それに紫原と並べるぐらい背の高い女子なんてなかなか居らんで?」
 だから小さい子も見たってなと言えば、紫原は不満そうな顔をする。
「今吉さん背が高いのにさあ」
「ワシの他にも背の高い女子は居るやろ」
「さっきと言ってること違くないー?」
「小さい子が泣きそうなこと言うんやないの」
 びしっと胸を小突いてやると、紫原は不満そうに少し考えてみると呟いたのだった。

 その一方で、ワシはとりあえず昼食を食べるのを再開したわけだが。
(とりあえず恋愛フラグは折れた、はず)
 頼むから紫原の恋人フラグは折ってくださいと、ワシはいもしない神に願ったのだった。



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