心配性/帝光中学三年生


「そういや今吉さんって今もバスケしてるんスか?」
「それ知ってどうすんねん」
 いや、単なる興味ッスと言い切った黄瀬はサラダを食べていた。

 二週間に一回ほどの屋上で昼食を食べる日。ワシは黄瀬と灰崎の二人とお昼休みを共にしていた。
 黄瀬は、バスケしてるならちょっと見てみたいなあとか言い出した。その隣では、灰崎が生徒会で必要な書類をしたためている。頑張り屋やな。
「てか赤司になんか言ったん?」
「え、赤司っちッスか?」
 特に思いつかないと首を傾げる黄瀬だが、ああ無意識に言ったんだなと直感した。非常に頭が痛い問題だが、ワシはこの帝光中学で変人として有名である。三年生の首席は生徒会長を務めるのが普通であるという噂と、ワシが三年首席なのに生徒会会計をしている事実が合わさり、さらに部活に所属せずに助っ人として様々な部活に顔を出す事が、物好きな女子生徒として格好の噂の的となっているわけだ。そして最近ではそこに、あの赤司と桃井からバスケ部に入らないかと勧誘を受けているというものまで加わった。こりゃ立派な変人である。
「あ、今吉さん知ってるッスかって青峰っち達に聞いてー、なんか赤司っちが反応してたッスね」
「それや」
 余計な事しよってとため息を吐けば、別にバスケ部に入ってもいいのではと灰崎が眉を寄せた。
「入らんわアホか」
「えー、別にいいじゃないッスかー」
「嫌や。ウチ受験生なんやけど」
「今吉さんって落ちることあるんスか」
「ウチを何やと思っとるん」
 時間がないと言えば、そんなに生徒会が負担なのかと灰崎が首を傾げた。黄瀬も、ショーゴ君だってそんなに仕事に追われてないのにと嫌味混じりに首を傾げた。
「生徒会と助っ人と習い事で手一杯やから。家事もせなかんし」
「「家事?」」
 生きる為には家事もせなかんと言えば、二人してさらに首を傾げる。
「もしかして両親が共働きなんスか?」
「そうやないけど」
「じゃあ何でだ」
「そら、ウチは一人暮らしやから」
 せやから家事もせんとと弁当のプチトマトを口に運ぶ。うん、美味しい。
「え、ちょ、は?!」
「マジかよ」
 混乱する黄瀬、ドン引きする灰崎。そこでワシは、そういえば中学生で一人暮らしなんてあり得ないよなと思い出した。すっかり忘れていた。というか頭が痛い問題だから考えないようにしていた。まあ、三年目だから仕方ないという事にしておこう。
「今吉さん、それゼッタイ他の人には言っちゃダメッスよ!!」
「分かっとるわ」
「生徒会の帰り、暗いから送ればいいのか……?」
「灰崎は無理せんでええよ」
 嗚呼もう心配ッスと叫んだ黄瀬に、そういえば黄瀬は姉がいたなとぼんやり思い出した。女は強いと分かっていながらも不審者や変質者への警戒心は強いという事か。いいことだ。でもそればそれは彼女さんに向けてあげてほしい。彼女居るか知らんけど。
「不審者情報とかホント気にして下さいッス。後、頼れる大人を見つけておくことと、警戒心は常に持って注意深く、鍵は絶対人に貸さないでおくことと……」
「心配性やな」
「これぐらいフツーッスよ!!」
「いやキモイ」
「ショーゴ君は黙って!!」
 相変わらず仲良しやなと思っていると、二人は何かを察したらしく、無い無いと叫ばれてしまった。



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