居残り認可/帝光三年生


 生徒会に灰崎が無事加入した頃。
 年度始めは色々と忙しく、生徒会室には会計のワシと書記の灰崎だけがいた。ワシは要求された部費をカットしたり過去の活躍をチェックしたりしていて、灰崎は過去の書類を見ながら会議の議事録を作成していた。
 無言で紙を捲り、キーボードを叩く音だけがする部屋に、ノック音が響いた。どうぞと言えば、失礼しますと聞き覚えのある声がして扉が開いた。
「居残り練習の認可をいただきに来たのですが」
(赤司やーー!!)
 灰崎が動きを止め、しばらくしてからそっとキーボードを叩く作業を再開した。触らぬ神に祟りなし、先輩よろしくお願いしますの念を受けた今吉は何か仕事回したろうかと思った。
「居残り練習の認可なら会長の仕事やね。じゃあ用紙渡すさかい、書いてきてな」
「分かりました」
 席を立ち、引き出しから申請用紙を取り出す。部活動が盛んな帝光、居残り練習をしたがる生徒も多い。勝手に居残られては困るので、申請制となっているのだ。
 用紙を持って赤司の前に向かう。ほいと渡せばありがとうございますと笑みが返ってくる。やけに愛想が良いな、と違和感を感じた瞬間。
「ところで今吉さんはバスケに興味があるのですか?」
 なんかとんでもないこと言い出しよった。

「えっと、まあバスケもおもろそうやと思うけど」
「この前、見学に来られてましたよね」
「(確かに行ったけど目立っとったけどお前そんなん気にするタマか)そうやな、友達と見に行ったで」
「熱心に見ていたようなので、もしかしたらと思ったんです」
「(あーこれ面倒な話になりそ)それで、何が言いたいん?」
「話が早くて助かります。バスケのマネージャーになっては頂けないかと思いまして」
 キーボードを叩く音が一瞬止まる。すぐに再開されたその音に、灰崎も30まで生きてれば図太くなるのだなあとしみじみ感じた。現実逃避である。

 バスケ部のマネージャーの話だが。ワシが生徒会に入る前は、文武両道少女の噂が立っていたらしく、それはもうたくさんの部活から勧誘された。その中にバスケ部のマネージャーもあったのだが、ワシは即座にお断りの返事をさせてもらった。
 幼稚園児の頃から何だかんだで体は鍛えているし、小学生までは花宮と1on1をしていた。そしてバスケから離れるつもりはなく、いつか桐皇でマネージャーをする事を目標に、本を読んで知識を蓄えたりテーピングなどの実践練習などもしている。蛇足だが実践練習の実験台は花宮である。
 そう、バスケ部のマネージャーというもの自体は別に悪くないのだ。むしろ大歓迎だ。だが、帝光のマネージャーとなると別の話である。
(わけわからん天才集団について行けるのは桃井だけなんやって……!!)
 ぶっちゃけ桃井も天才枠なので、まあ天才について行けるのは天才だよなという。高校で各々丸くなるのは知ってるが、中学生時代は荒れに荒れてたという話を前回の桃井から聞いていた。そんな面倒くさい中に突撃して行けるか何て"無理"の一言に尽きる。
「生徒会の仕事があるし、習い事もある。家事もせなかんし、何より受験生やから」
 ごめんなと眉を下げれば、赤司はそうですかと言った。おお納得したと思ったけど、そんなこたあなかったわけで。
「では助っ人なら良いですね」
「え、ああ、そう、や、な?」
 確かに助っ人なら習い事仲間からの依頼を受けることもある。しまった、そんなことしてなければ良かった。あれがよくてこちらはダメと言ったら、根掘り葉掘り聞かれ、前回について喋らされそう。そしてそれを目の前の少年が信じるかと言われたら、頭おかしい認定をされるかもしくは。
(もしくは、って想像できん!)
 赤司こわい。ほんと怖い。後ろで合掌している灰崎には後で絶対に仕事回そうと誓った。



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