首席ですよ今吉さん/帝光中学一年生/今吉視点


 まさかの学年首席でご入学してしまったワシは、もう少し手を抜けばよかったと死ぬほど後悔した。

 現在は五月。部活には入らず、ワシは何故か生徒会会計をしていた。お陰で部活に入らないかという声をかけられないのはありがたいが、どこから噂を聞きつけたのか、剣道部や茶華道部からヘルプを頼まれることがあった。いや、どこからも何も習い事仲間が居たからだからだが。
 ということでワシは意外と忙しい毎日を送っている。家事、習い事、部活のヘルプ、生徒会。入学してからの一ヶ月、本当にあっという間だった。その間に由孝君が親にごねて携帯を買ってもらったそうで、メールを頻繁に交わしたり、花宮に嫌がらせと愚痴のメールを送ったり送られたり、休日や大型連休は実家に帰ったりしている。食事の面では近くに住んでいた父方の祖母がとても助けてくれた。ありがたい。ちなみに実家近くに住んでいるのは母方の祖母である。

 そんなこんなで本日は習い事の日。生徒会を早めに上がらせてもらい、家に帰って準備を済ませると家を出る。今日は剣道の日だ。
 道場に着くと先輩方などに挨拶をする。その中でもワシがよく声をかけるのは、一歳年下の水戸部君だ。そう、例の誠凛の水戸部君である。
 前回のように何も喋らないが、肯定と否定ぐらいは分かるので何とかなっている。ちなみに水戸部君は中学に上がると同時に剣道から離れると決まっていて、今年が最後の年である。一年しかこうして言葉を交わすことが無いが、その間に彼と知人ぐらいになるのは可能だ。ちなみに何故知人になりたいかと言えば、少しぐらいは水戸部君の意思が分かるようになればバスケで役立つのではということなの、だが。
(あかん水戸部君めっちゃおもろい)
 喋らないキャラというのがまず面白いのに、そのせいであわあわと慌てていたり意思が通じて喜んだりするのがとても面白い。あかんこの子めっちゃおもろいと思わず溢した時には妹さんに凛兄面白いですよね!と同意された。家族からもその印象なのか。

 剣道から帰ると夜も遅い時間だ。さっさと夜食と風呂を済ませて、授業の見直しをして寝る。目覚ましは早めにセットして、朝に授業の予習をする予定だ。帝光で何故か首席を維持しろという雰囲気になってしまった為に、微妙に油断できないのだ。面倒だが、仕方ない。本当に、入学試験でもっと手を抜けばよかったとワシは後悔した。



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