リスタート
今吉視点


 目を開いたら段ボールの中にいた。
 我ながら意味が分からなくて頭が真っ白になる。とりあえず起き上がろうとするも、どうにも上手くいかない。体のバランスが取りにくく、段ボールの縁に手が届かない。ワシは段ボールの中で寝転がっているようだ。とりあえず起き上がればいいのかと後ろに手を回し、起き上がった。するとマンションらしき一室は段ボールで埋め尽くされていた。荷ほどきをする人物が二人、そのうちの女性の方はまだ首が座っていないような子どもを抱えていた。三人目が現れて、その老婆に女性は荷ほどきを代わってもらった。そして女性はワシに気がつく。
「あら、翔子ちゃん。かくれんぼはもういいの? 」
 翔子ちゃんとは。


 状況を整理しよう。
 とりあえず自室だと言われた部屋に案内される。マンションだと思っていたが、実は一軒家だったらしい。自分の部屋には段ボールが少しと、祖母がプレゼントしてくれたという中々に重厚そうな姿見が一つ。かつての身長でもそれなりに使えそうなそれの前で、ワシは改めて姿を確認した。小さな体、具体的に言うと園児ぐらい。短く切り揃えられた黒髪、睨めば割と誰でも何とか言いくるめられるツリ目。オッケーその辺りは変わってない。サイズ以外は。でもそれ以上に心配事があった。
(ワシ何でスカート履いとるん? )
 ちなみに確認はした。男性らしいアレがなかった。つまり姿見を見つめてボケっとしているのは単なる現実逃避である。
 一階で荷ほどきをしていたのは若くはなっているが記憶にある両親だった。赤子は妹で、老婆は祖母だ。祖母は荷ほどきを手伝いに来たのだろう。とすると家が近いのだろうか。というかこの頃に引っ越しとかしただろうか。いや、そもそも、何が起きている。
「何も納得できひん。」
 今吉翔一、男としての最後の記憶は受験勉強にキリをつけてベッドで寝たところであった。
 そして多分今のワシは今吉翔子とやらで、幼女らしい。
「頭脳は男、見た目は幼女その名も……アカン! 誰も得せん!! 」
 ただただ、現実が辛すぎて痛い。



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