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凛と三日月宗近の話


 良い子良い子と愛でられる。その愛は何を含むのか。
 我らの主は幼い見た目をしている。少女の姿形をするその主を正しく人間であるとはこの本丸の刀剣男士は誰も思ってはいないだろう。
 主の部屋に来てみればごろりと転がって何かを見ている。長い髪を畳に投げ出して見つめるそれは何かの絵巻物であり、美しい絵が印象的だ。
「竹取物語よ。しっているかしらねえ。」
 主は顔を上げてにこりと笑う。優しい笑みだ。その腹の内は分からないし、分かりたくもないが。
「主よ、その絵巻物は書庫に在ったのか。」
「いいえ、とある御人がくださったのよ。いいひとねえ。とても。」
 にこにこ、笑顔。どうやら我らの主は上機嫌なようだ。それなら何も悪いことは起きないだろうと安心すれば、嗚呼そうだわと主が言う。
「午後におきゃくさまがいらっしゃるのよ。うえから三段目のらくがんをだしておいてちょうだいね。お茶はあとで前田にまかせましょうかねえ。」
 あの子はお茶を淹れるのが上手だからねえ、と。客というのに気を取られそうになるが、気がつく。
「主。」
「でも前田はだれからお茶の淹れかたをおそわったのかしらねえ。いち兄とかいう刀かしら、それとも平野とかいう刀かしら?」
「主、待て。」
 ねえ三日月、と。
「欲しいわねえ。」
「主ッ!」
 その爛々とした目に叫べば、主はクスクスと笑う。楽しそうな様子に、一安心した。
 主の、鈴が鳴るような声がする。
「いやねえ、こんなことに無駄遣いなんてしないわよ。ふふ、三日月は心配性ねえ。」
 いい子だわ、いいこ、良い子。そう語る主は体を起こし、そろそろお仕事をしましょうかねえと机に向かったのだった。



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