来派/秋祭り/ほんのり加州さんと審神者も出てきます。


 秋晴れだ。
 明石はむくりと起き上がる。審神者に特別に与えられた目覚まし時計はまだ鳴っていない。
「おっはよー」
 ひょいと蛍丸が顔を出す。どうやら、彼も明石と同じように早起きをしたらしい。明石が眼鏡を掛けて布団を確認すると、愛染と蛍丸の布団はきちんと畳んで隅に寄せられていた。
「朝ごはんのおやつに干し柿が出るんだって」
 ただし早いもの順だよ。そう言われたが、明石は愛染と蛍丸の分があればいいと返事をした。


 昼になると、本丸を走り回っていた愛染が明石と蛍丸のいる来派部屋にやって来た。その手には今日のために用意していた浴衣がある。
「今日は暑いからさ、これぐらいの浴衣でもいいんじゃねーかなって!」
 祭りにはまず形からと、愛染は胸を張った。


 軽装の浴衣に袖を通し、着付けを済ませる。普段は洋服のため、明石達はややもたつきながら着付けをした。途中で助太刀にと加州がやって来て、テキパキと器用に着付けの仕上げをしてくれた。
 お礼は別にいいから、主に一度姿を見せておいで。そう言われて、来派三振りで審神者の執務室に顔を出すと、審神者は持っていた筆を置いてしばらく写真撮影をしてから、行ってらっしゃいとお小遣いを渡してくれた。ちなみに明石だけはお小遣いを拒否し、代わりに今撮影した写真を焼き増ししてもらう約束を取り付けていた。

 万屋街のとある通り。秋晴れの空の下は、やんやと祭りの音でごった返す。祭り客は刀剣男士はもちろんの事、審神者やこちら側に馴染みのある人間、妖怪や旅人までと様々だ。
 愛染は念願の祭りだとはしゃぎ、蛍丸の手をとった。
「あっちに投げ輪がある!」
「国俊は投石積めるし、いけるんじゃない?」
「やってくる! 蛍は欲しいものあるか?」
「ううん、俺はむこうのたこ焼きがいいや」
「じゃあ次はそっち行こうぜ! 国行は何がいいんだ?」
「こっちのことは気にせんと。愛染の好きな屋台についてくさかい」
「いいのか?」
「当たり前やろ」
「そっか!」
 じゃあまずは投げ輪だと、愛染は走った。その後をとててと蛍丸が続き、明石もまたその後ろを続いた。
 祭りは長い。宵祭りまでありますよと、投げ輪の店主をしている大天狗が教えてくれた。明石は夜まで帰らないことを決めた。こんなに祭りを楽しむ愛染と蛍丸を途中で帰してしまうのは心苦しい。いつもなら早く寝てしまおうと言うところだが、今日ばかりは夜更ししたって仕方ない。ただし、夜戦のことは例外とする。本業ですので。
「あっちに射的がある!」
「先にたこ焼きとお好み焼きじゃないの?」
「増えてるじゃねーか!」
 任せろと愛染が蛍丸の手を掴んで小走りになるので、人にぶつからん様になと明石は声をかけた。

 秋の賑やかな祭りの中。来派のちょっぴり特別な日は平和に過ぎていくのだった。

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