毛利藤四郎+大包平/ふたりがたり
十万打リクエスト企画作品になります。名無しの審神者様、リクエストありがとうございました!


 大包平さんと僕の距離。

 毛利の朝は早い。兄弟の中でも早い方である。毛利はテキパキと手際良く着替えを済ませると布団を畳んで隅に寄せた。
 部屋から出ると本丸が秋の景趣に変わっていた。燃えるような紅葉の赤が眩しい。立秋でしたか。毛利ははあと息を吐いた。まだ、息は白くないが随分と涼しかった。
 朝の支度を整えてから厨に向かう。この本丸では全員が持ち回り制の厨当番だが、朝餉だけは朝に強い刀で固められている。
「おはよう」
 先に挨拶されて、毛利はひょいと顔を上げた。
 深緋色の髪、我らが躯たる鋼の目。全てが整然と配置された、美の結晶。やはり、この方は美しい。
「おはようございます、大包平さん」
 お手伝いしますよと、毛利は腕まくりをした。

 本日の朝餉当番は大包平と加州だった。その手伝いに毛利と蜻蛉切と桑名が加わる。
 力の強い、姿の大きな刀がいないと厨は回らない。何せ何十もの刀が所属しているのだ。食事の量は半端ではない。そんな事情の中で、大包平と蜻蛉切は特に素早く動いていた。先日顕現したばかりの桑名はそんな蜻蛉切に付いていこうと精一杯な様子だった。
「毛利、味噌汁の具は何がいい」
「そうですねえ……油揚げと葱がいいです」
「そうか」
 ならばそれにしよう。冷蔵庫から油揚げ、貯蔵庫から葱を取り出した。

 朝餉の準備が整うと、大包平は朝に弱い鶯丸を起こしに向かった。残された毛利は兄弟がちらほらと並ぶ粟田口の席でちょんと待っていた。うちの子ながら可愛いですねえと秋田を眺めていると、毛利は相変わらずだなと薬研に声をかけられた。
「僕は僕ですからね」
「そりゃそうだ。で、今日の朝餉当番は誰だ?」
「大包平さんと加州さんですよ」
「ふふん、そうか」
 そりゃいいと、薬研はくつくつ笑った。

 最後に審神者が席に着くと、朝餉が始まった。温かい味噌汁、温かい白飯、よく浸かったたくあん、焼きたての塩鮭。全てに丁寧な仕事が見えて、毛利は知らずのうちに頬を緩めた。
 そんな毛利に、乱が指摘する。
「嬉しそうだね」
「ええ、そうですね」
 良かったねと、乱は兄の顔で笑っていた。

 サッサと食器を洗う。片付けていると、大包平がやって来た。
「片付け、感謝する。俺も加わろう」
「大包平さんはこの後、畑当番では?」
「時間はある」
 相変わらずの真面目さんめ。毛利がぼやくが、大包平には聞こえていないらしかった。

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