来派/つかの間の夢まぼろし
十万打お礼リクエスト企画作品になります。NOAH様、リクエストありがとうございました!


 ありきたりな日常。

 愛染が山盛りの洗濯物を抱える横で、蛍丸が大きな籠を背負っていた。
「二振りとも、それどうしたん」
「「あ、国行!」」
 二振りが振り返り、特に愛染がぱたぱたと明石に駆け寄った。
「国行、もう平気なのか?!」
「平気や。にしても、手入れ部屋で散々説教されましたわ」
 子供らを悲しませるなんて。そうがみがみと審神者(二児の父)に説教された明石は若干の疲労が見える。愛染は恥ずかしそうに洗濯物をぎゅっと握った。
「大騒ぎして悪かった。主さんにも伝えるからさ」
「国俊だけじゃなくって、俺も吃驚したんだよ」
 洗濯物が詰め込まれた籠を背負った蛍丸が言う。
「大阪城に潜ったと思ったらすぐ重傷帰還するんだもん。何があったのさ」
「何って、集中攻撃されてしもうただけや」
「国行が働きたくないって言ってるのがバレたのか?」
「不穏なこと言わんといて」
 ぶるりと震えた明石に、冗談だってと愛染は笑った。
「一先ず、洗濯してくるからさ。国行は休んどくか?」
「そうさせてもらいますわ」
「えー、手伝ってくれないの?」
「この後、馬当番の手伝いしろって言いつけられてますんで」
「それは手伝えないね」
「じゃあ、また後でな!」
 愛染と蛍丸はそのまま洗濯場へと向かった。明石はその背を見送ってから、そうだと思いつく。
「あんま働きたくはないんやけど」
 心配させたのだから仕方ない。明石はそうぼやいて厨に向かった。

「つっかれたー!」
「量が多いと疲れるね」
 愛染と蛍丸が疲労困憊といった様子で自室に戻ると、保護者たる明石はいなかった。きっと馬小屋だろうとあたりを付けて、二振りは部屋で寝転がった。しかし、ふと部屋の片隅にちゃぶ台が広げてあるのが見えた。愛染ががばりと起き上がる。
「えっ、ほ、蛍!!」
「えー、なに?」
「なんかあるぜ」
 ほらと二振りがちゃぶ台に近寄ると、魔法瓶に入った冷たい緑茶とドーナツがあった。砂糖をまぶしたそのドーナツは歪な形で、明らかに手作りなのに、厨番の気配がない。
「これ、もしかして国行が作ったのか?」
「冷茶もかな?」
 愛染と蛍丸は顔を見合わせて、にっと笑った。
「これ、国行の分は残しとこうぜ!」
「そうだね」
 いただきますと、愛染と蛍丸はドーナツに手を伸ばしたのだった。

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