古備前/どうしようもなく馬鹿なきみへ/秋田くんと包丁くんもいます。
タイトルは背中合わせの君と僕様からお借りしました。


 すうっと氷が張っている。それを見て、確認してから、湖面の隅に足をつけた。ぱりん、音がしたような気がする。薄い氷が割れた。
「何してるんだ」
 寒いのは苦手ではなかったのか。大包平が呆れた顔をして鶯丸に駆け寄った。
「部屋で大人しくしていると言っていただろう」
「しかし、それではお前の面白い姿が見えない」
「面白いと言うな! 俺は除雪作業をするだけだ!!」
「煩いぞ」
 お前は声が大きいなあと鶯丸は耳を触った。ひやりと冷たくて、撫でようとした手をぴたりと止めた。
「大包平、寒い」
「冬なのだから当たり前だろう! ほら、向こうにストーブがある」
 温まって来いと、大包平は鶯丸の手をとった。手袋越しなのに、ぽかぽかと温かな肌の温度を感じた気がして、鶯丸はふわと微笑んだ。
「大包平は温かいな」
「俺だって充分寒いぞ」
「だが、温かそうだ」
「まあ、体温は高い方だがな……」
 ほらついた。大包平に導かれて、かじかんだ手を温める秋田と包丁の隣に座る。あ、鶯丸さんと二振りが反応した。
「鶯丸さんも雪遊びですか?」
「それとも除雪作業なのか?」
「俺はどちらでも無いぞ。大包平を観察したくてな」
「そうでしたか!」
「物好きだなあ」
 そうだと包丁は歌仙特製の小さなポシェットから飴玉を取り出した。大包平のように真っ赤な飴玉だった。
「いちご味だぞ!」
 元気なさそうな鶯丸さんにおすそわけ。包丁から手渡されたそれを、口に運ぶ。とろりと甘い飴玉から香る懐かしい苺味に、ふと息が漏れた。
「美味いな」
「だろお!」
「包丁くんの選ぶお菓子はいつも満点ですよね!」
「満点とは?」
「いつもぱーふぇくとってことです!」
 秋田がにこりと笑う。包丁は青林檎の飴玉を口にしつつ、秋田に桃味の飴玉を差し出した。

 鶯丸が暫くストーブの前で飴玉を舐めていると、はあと音がして隣に大包平がやって来た。どうやら担当箇所の除雪作業が終わったらしい。長谷部と大倶利伽羅が同じ班だったらしく、真面目な三振りで上手いこと片付けられたようだった。
「黙々と作業していたな。つまらん」
「黙っていても作業が進む面子だったからな」
「何だ、仲が良いのか?」
「別に普通だ」
 それよりも、休んだら加州の方を手伝いに行く。大包平はふうと息を吐く。まだやるのかと、鶯丸は目を見開いた。
「働き過ぎるとまた倒れるぞ」
「赤疲労には気をつける」
「橙疲労からもう動きは鈍いぞ」
「しかしこんなことで桜漬けなどせん!」
「それはそうだろうがなあ」
 そろそろ行くかと大包平は立ち上がった。そして、秋田と包丁に鶯丸を任せて、颯爽と加州の助太刀に向かう。
「大包平は働き者だなあ」
「鶯丸が休みすぎなだけだと思うぞ」
 包丁のしらとした目に、鶯丸はハハと笑ったのだった。

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