古備前+山姥切長義/秋の縁側/縁側でお茶会しているだけです。


 優しくて、強くて、美しい。

 ちちち、小鳥が鳴いていた。朝、長義が審神者の業務の手伝いの為にファイルを抱えて歩いていると、ふと縁側を通った。その定位置には鶯丸が座っていて、おやと顔を上げてきた。
「なんだ、今日も手伝いか」
 忙しいなとのんびり言って、そのまま続ける。
「時間ができたらここに来るといい、その頃には大包平と平野も帰ってきていることだろう」
「お茶会のお誘いかい」
「そういうことだ。どうだ?」
「有り難く受けるよ。丁度目処も付きそうなんだ」
「それは良かった」
 ではまた後で。長義は廊下を進んだ。

 審神者の職務を手伝い、休憩していた近侍の蜂須賀を呼びに向かう。その道中、ふっと吹く風が変わったかと思うと、秋の景趣になっていた。ここの審神者は今日がもう秋なのだとようやく気がついたらしい。まあ、最近は仕事が立て込んでいたので仕方無いだろう。

 手伝いを終えて縁側に向かうと、熱い茶を手にした鶯丸と大包平がいた。どうやら、平野はお茶の用意を整えた後に、兄弟と買い物に出掛けたらしい。
「おお、来たか」
 ご苦労だったなと、鶯丸は微笑む。大包平もまた、ご苦労と労をねぎらってくれた。
「大包平さんこそ、出陣お疲れ様」
 そう言って縁側に座ると、庭には紅葉が広がっていた。はらり、はらりと紅葉が落ちて、やがて赤い絨毯となる。空気は澄んでいて、夏のような息苦しさはない。熱い茶が美味しい季節だ。長義は心が解けていくようだった。
「茶菓子は落雁を用意しておいたんだ」
「ああ、あれか」
「そうだとも。山姥切長義も見るといい」
 綺麗だぞと大包平と鶯丸が勧めてくれた落雁は花の形に整えられていた。それは西洋の花、薔薇の形をしていた。白い薔薇に、ほうと息を吐く。
「たまにはこういう趣向も良いだろう」
「たまにはな!」
「薔薇なら、秋に咲く品種もあったね」
「ふむ、そうなのか?」
「ああ、聞いたことがあるな」
 記憶を手繰り寄せようとする大包平の隣で、お前は物知りだなあと鶯丸に褒められて、長義は勿論だよと胸を張る。そして、小さな薔薇の落雁を手にした。ころんと、手のひらで転がってしまいそうな薔薇の花だった。
 口に含むと、しゅわりと溶けて消えていく。それがまた、心地良い。熱い緑茶を啜り、長義は笑みを浮かべた。
「美味しいね」
「お前がそういうのなら間違いはないのだろうな」
「俺も食べよう」
 大包平がその大きな手で落雁を摘み、食べる。ぱっと鋼色の目を輝かせて、これは確かに良いものだと嬉しそうにした。
「買ったのは知っていたが、どこの店で手に入れたんだ」
「万屋街の三丁目辺りにある菓子屋だったな」
「ふむ、今度、俺も行ってみよう」
 お前も来るか。大包平に誘われて、長義はパチリと瞬きをした後に、喜んでと返事をした。
「大包平さんと出掛けるのならきちんと準備をしないとね」
「なんだそれは」
「美しい刀と出掛けるならば相応の格好があるだろう?」
「別にお前の格好で俺の良し悪しは変わらんぞ」
「それはそうだけど、心持ちの問題さ」
 そういうものか。大包平は無理くり納得して、二つ目の落雁を手にしたのだった。

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