大包平+毛利藤四郎/僕の記憶の宝物/過去捏造を含みます


 実質のレアリティとやらが僕のほうが高かった頃がある。その頃の僕は多くの主さまに沢山乞われていたのだろう。だが、今となっては昔の話。短刀レシピとやらを回していれば低確率とはいえそのうち手に入るのが、僕、毛利藤四郎なのです。

 走る、走る。寒風吹き荒れる本丸の、階段を駆け上がる。主さまの部屋の前に立つと、立ち止まってから深呼吸をした。大丈夫、主さまならきっとお許しくださる。きゅっと心を決めて、声を上げた。
「毛利藤四郎です。主さま、お話があります」


「俺の新人教育担当が毛利だと聞いたんだが」
 大包平は不思議そうにしている。新人教育担当はこの本丸では一番最近新人教育から卒業した物がなる仕組みになっていた。
 だから、大包平の新人教育担当は先日卒業した亀甲貞宗になる筈だったのだ。
「ええ、僕です」
 えっへんと胸を張れば、何をそう得意そうにしているんだと呆れられた。でも、少しくらいは喜んでいると見ていいだろう。彼の鋼の目はいつも鋭いけれど、今は柔らかく見えた。それが己の勝手な妄想だとしても、毛利にとってはどうでも良かった。
「大包平さんにお外の事を知らせるのは僕のほうが向いてますからね!」
「何を根拠に言ってるんだ!」
「池田家で僕のお話を興味深そうに聞いていたじゃありませんか」
「それは、そうだが!」
 ああもうと大包平は目元を覆う。そろそろ困らせてしまうだろう。それは本望ではないので、毛利は早速話題を変えた。
「まずは筆記試験をします。刀剣男士には個体差がありますので、その筆記試験で大まかな問題を発見してしまいましょう」
「わかった。どこで筆記試験とやらを行うんだ」
「この本丸には教室と呼ばれる部屋があります。新人教育の座学は主にその部屋で行うんですよ」
 それでは参りましょう。毛利がそう言うと、大包平は、ふと告げた。
「俺はお前の好きな小さい子ではないのだが、案外優しいのだな」
「なんですかそれ?!」
 確かに小さい子は好きだけども、それ以外には興味がないなんて心外だ。勿論、そういう毛利藤四郎という個体もいるだろうが、今この本丸にいる毛利藤四郎は全ての刀が等しく尊いものだと思っている。

 ただ、大包平はその中でも特別だ。かつての記憶の中、宝物のような、池田家での光の記憶。燻っていた自分を光の元へと引きずり出した大包平の、力強く、厳しいまでの優しさが、この毛利には特に印象深かった。

 そう、だからこそ、次は自分の番なのだ。
「筆記試験の前に筆記具の使い方が分かるかを調べないといけませんね!」
 中には最初は筆しか使えなかった刀もいるんですよ。毛利はそう楽しそうに告げて、大包平の手を引っ張ったのだった。

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