大包平+秋田藤四郎/あやしあやかし屋敷探検/S(少し)F(不思議)な話。


 あやかし屋敷があるんだって。こそこそ、ひそひそと、そんな噂を聞いた。
「そもそも、付喪神もあやかし寄りではないか」
 何を恐れる必要がある。大包平がずけずけと言うと、でもですよと秋田はまろい指をピンと立てて言った。桜貝のような爪がちらりと揺れる。
「もし万が一、そのようなお屋敷があるとしたら、探検してみたいと思いませんか?」
 だってそこにも、かつては人の暮らしがあったのかもしれないのだから。秋田はそう言って目を輝かせた。


 ここはあやかし屋敷。まさか本当に来ることになるとは、大包平は頭痛を覚えながら、隣で懐中電灯を片手に意気込んでいる秋田を見た。
「本当に行くのか」
「はい! もちろんです」
「では、俺からあまり離れるな」
「大包平さんは反対しないのですか?」
 きょとんと言われて、ここまで来て反対はしないと大包平はハキハキとした口調で言った。
「ただ、お前の兄弟刀には小言をもらうだろうがな」
「黙って出てきてしまいましたからね……」
 でも、それよりも僕は知りたいのです。秋田は澄んだ空色の目を輝かせた。
「このお屋敷に残された付喪神がいるのか、知りたいのです」
 その言葉に大包平は、あまり危険なようなら戻るからなと、告げたのみだった。

 傾いた武家屋敷。二振りで門を乗り越えて、玄関から失礼しますと入る。所々が朽ちて落ちている板張りの廊下を歩く。懐中電灯で上を照らせば蜘蛛の糸がキラキラと輝いた。
 台所と思わしき部屋に入ると、秋田はじろじろと食器棚を見た。このてぃーぽっとはもうすぐ九十九になるところだったみたいです。しょんぼりとぼやいた。
「あ、あちらはお茶室でしょうか」
「そのようだな」
 向かうかと言われて、勿論ですと秋田は頷いた。

 躙口から茶室に入ると、そこには茶碗や茶釜が揃っていた。こちらも、九十九になる前に人の手を離れたらしかった。持ち帰るかと大包平が問いかけると、いいえと秋田は頭を振った。
「きっとこの物たちも、主君との思い出の地から離れたくないでしょうから」
 まだ九十九で無くとも。寂しそうな声音を、大包平は指摘することなく茶室から出た。

 あやかし屋敷の空は高い。秋空のそこで、野草が生え放題となっている庭を眺めた。手入れをしてやりたい。そう思うものの、大包平は手を加えない。秋田もまた、そうだった。
「また来ましょう。今度は、御神刀の誰かを連れて、来るんです」
 ところであやかしは出ませんでしたね。秋田が不思議そうに言うので、大包平はふんと笑った。
「真っ昼間に現れるあやかしなど、そうそう居ないぞ」
「詳しいんですね?」
「俺だからな」
 さあ、帰ろうと二振りは時空移動装置を起動した。秋のあやかし屋敷の奥から、今度はお土産を持っておいでと見知らぬ主が微笑んだ気がした。

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