古備前/それだけの為に進化しました


 羽ばたく鳥は、美しい。
 機能美というものがある。鳥は空を飛ぶために汎ゆる物を犠牲にした。彼らは、地上で碌に歩けないという不自由を背負い、遮るものが何もない空を跳ぶ自由を手に入れた。それは、取捨選択である。だが、何かを犠牲にし、一芸に秀でたものは、何であれ、美しいと人は言う。
 この大包平は、どうなのだろう。

 大包平は美しい。多くの人がそう認めてくれた。大包平は現在では再現できないほどの、軽さと頑丈さを両立している。手に持った多くの人が驚いてくれる。傷一つない姿は、まさに刀剣の横綱である。人はそう讃えてくれた。それは刀としてとても嬉しいことだ。
 ただ、見出されたのは遅かった。天下五剣に名を連ねられなかった。現代において、同じ横綱と言われる童子切はその称号を得ているというのに。でも、そうして見出されるのが遅かったのは、愛してくれた一族がいたからだ。大包平は見出されるのが遅かったことは、あまり口にしたくない。多くを言っては思ってもいない不平不満を持つと思われるからだ。
 大包平は己を愛してくれた一族を、祝いのたびに見守ってきた子どもたちを、愛している。それは紛れも無く自らの誇りだ。故に起きた油漬けや、門外不出の宝であることなどは、刀剣として素晴らしく名誉なことだ。
 だからこそ大包平は美しいのだ。気が遠くなるほど昔から、人に愛された。人がそう証明した。だから美しいのだ。
 そのことは分かっているのだ。

 だけど、飛ぶ鳥を見て思う。俺には、あの美しさは得られない、と。

 同じ美しさなどある筈が無い。それでも、あらゆる機能を捨てて、空を選んだ鳥は美しい。
「そうか。人並みに、いいなあと、思うわけか」
 隣に鶯丸がやって来ていた。縁側に茶を持って座ったまま、呆けてしまっていた。疲れでも溜まっているのだろうか。
 鶯丸は、茶が冷めただろうと、新しく熱い茶を淹れてくれた。礼を言って受け取ると、鶯丸は礼を言われる程じゃないさと微笑んだ。
「お前は美しい。それでは駄目なのか」
「分からない」
「しかし、あの鳥とは比べられんのだろう」
「ああ、全てが違うからな」
「ふむ。まあ、あまり深く考えると思考が沼に嵌るだけだ。気にするな」
「お前はいつもそうだな」
 ふっと意識が浮上した気がした。お前はそればかりだと呆れて言えば、鶯丸はそうだなと肯定する。
「お前は気にし過ぎなんだ。それよりも、今日の夕餉は練度上限祝いで宴会になるそうだから、手伝ってほしいと燭台切が言っていたぞ」
「なっ! それをはやく言え!」
 すぐ行くぞと立ち上がり、歩きかけて手の中の茶を思い出す。厨の机の隅にでも置かせてもらえばいいだろう。だから、しっかり持ち直してから、振り返った。
「ありがとう、鶯丸」
「どういたしまして、だな」
 ひらひらと手を振られて、軽く手を振り返してから、俺は厨へと向かったのだった。

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