古備前+α/柏餅の葉は食べれないので/大包平と短刀が戯れる姿を観察する鶯丸の図/早いですが端午の節句ネタです


 こどもの日をご存知たろうか。
「大包平、主からの直々の命だ」
 朝、鶯丸はそう言って、書を開いた。
「こどもの日は短刀と過ごすように、と」
 朝っぱらから何を言っているんだこいつはと思ったが、大包平はそれよりも己より早く起きる鶯丸なぞレア中のレアだなとぼやくに留めた。

 元々、大包平は短刀と触れ合う機会が多いのではないだろうか。少なくともこの本丸では命令など受けずとも、短刀たちとこどもの日には柏餅を作る約束だって取り付けている。みんなでおもちをたべるのだぞと笑う謙信はとても楽しそうで、大包平は勿論だと快く指切りをしたものだ。
「で、鶯丸は何をしているんだ」
「観察を少々」
「まあ、いいか」
 放置して厨に行くと、鶯丸も当然のようについてきた。予想の範囲内である。なお、そんな鶯丸の後ろを控えめに平野が追いかけていたのも、予想できたことである。
 厨では前田と毛利と愛染がエプロン姿で待っていた。厨番ですいーつ担当の小豆と共に、皆でわらわらと柏餅を作る。
「大包平さん! これでいいか?」
「もう少し餡を包めるか?」
「こう?」
 よいしょと餅をこねる愛染に、指や手のひらの使い方を教えると、彼は素直に動作を真似た。
「うーん、難しいです……でも小さい子のためです!」
「その意気です!」
「ふたりともとてもじょうずだぞ」
 ふふと小豆が笑う隣で、毛利と前田が四苦八苦しながら柏餅を成形していく。ずっと音がして、鶯丸が茶を啜った。手伝わないことに誰もツッコミを入れないのは、一番彼に物を言える大包平が気にしていないからだ。

「では、あとはわたしがやっておくよ」
「任せた」
 小豆と別れ、愛染と毛利に手を引かれて大包平は広間に向かう。鶯丸はそんな姿を眺めながら、ちょいちょいと小豆に声をかけた。
「少し、頼みがあるんだが」
「なんだい?」
「汁粉などは作れるか? その餡は大包平が練ったものだろう? きっと美味いと思うんだが」
「ああ、それぐらいならよういしておくよ。ふふ、鶯丸さんは大包平さんのすいーつがすきだね」
「あれの作る菓子は何故か口に合うんだ」
 勿論、小豆が作るすいーつも好きだと褒められて、小豆はくすくすと笑ったのだった。

 鶯丸が早足で広間に向かうと、短刀たちにもみくちゃにされている大包平がいた。最終的に厚が持ってきた紙芝居を、大包平と毛利が読むことになったようだ。
 臨場感たっぷりに語られる童話に、短刀たちが吸い込まれていくようだった。大人の形をした刀までもが耳を澄ましている。大包平も毛利も、物を語るのが上手いなと、鶯丸はしみじみと感じた。

 紙芝居を二つ読んだところで、小豆が柏餅を持ってきた。短刀と大包平が本丸中に柏餅を配り、審神者にも手渡していた。
 何故か拝まれたのだがと、審神者の執務室から出た大包平と秋田は首を傾げていた。

 それから、広間で柏餅を食べる。弾力のある白い餅と、甘い餡、葉の香りに、これは初夏のような気がする。きゃらきゃらと楽しそうな大包平を見た鶯丸は、来年は鯉のぼりを買うべきだろうと、審神者に進言することを決めたのだった。

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