小狐丸×お供の狐/添えた鈴蘭、狐の嫁入り/私色に染まれスタンスな小狐丸さんと無自覚に恋する狐


 朝、鳴狐を見つけてお供の狐を掴み、別れる。混乱する狐はたいそう手足をばたつかせて鳴狐を呼んだが、昨日の晩に今日借りることを約束させたので、鳴狐はいつもの感情がよくわからない表情で手を振るだけであった。
 着いた場所は花畑である。ただし目的は花を愛でることではない。様々な花が咲き乱れるそこに狐を降ろし、そこで待っておれと言いつけて目当てのものを探す。昨日の昼に置いておいたそれはすぐに見つかった。騒いでいるもののその場を動かないでいる狐の元へ行けば、私の手にあるものを見て首を傾げた。それは風呂敷で包まれた何かだ。あぐらをかいて座り、狐の目の前で袋包みを解く。現れたのは小さな白い布。それを持ち上げて、じっとしておれと言いつけて狐に被せる。何ですかと驚く狐にかけた布を整えれば、それはただの白い布ではないことが分かる。
「これは、鶴丸様の着物に似ているような……ええと、小狐丸様これはどうなさったのですか?」
「ふむ。見立て通りじゃ。」
「聞いておられますか?!」
「もう少し待っておれ。」
「小狐丸様?!小狐丸様どこに行かれるのですか!!」
 布が存外重いのか飛び上がろうとして地面に伏せることになっている狐は見ていて面白い。しかし目的のものを見つけたのでそれを手折ると狐の元に戻った。そしてその白い花を白いそれを被る狐に飾り付けた。狐は私の手の中にあったそれを見て、嗚呼それはと反応した。
「すずらんでございますね!小さくて愛らしいですなあ。」
 穏やかに言うその言葉に、そうじゃのうと返事をしながら狐を思い通りに飾り付けて満足する。狐はそんな私を不思議そうに見ていた。

 それは白無垢によく似た布を纏う花嫁だ。鈴蘭の小さな花が、その小さな花嫁をより美しく魅せる。

 小狐丸様と言う口をゆっくりと撫でて閉じさせる。この狐は口元に手をやると噛むことを恐れて口を閉じるのだ。本当に愛らしい事。
「やはり私の花嫁は美しいものよ。」
 にこりと笑えば、狐は赤くなって固まった。いつも良く回る口は無意味な開閉を繰り返しており、そんなうぶな反応までもが愛おしい。
「わ、わたくしめはオスでございます!!それにわたくしは狐でありまして、小狐丸様の花嫁になど畏れ多くてなることなどできませぬう!」
「私はヒトガタをとっているとはいえ、神であるが。」
「それこそ畏れ多く……!」
「お主も似たようなものであろうに。」
 それでもと駄々をこねる狐に、そっと鈴蘭を足す。主様は飾るなら鈴蘭にしなさいと申していたが、なるほど、これは良い。狐の口元に手を寄せる。狐は慌てて口を閉じた。押し付けられた花嫁というものを理不尽だと怒ることなく、ただただ慌て、果てには私を傷つけまいと口を閉じる。なんと私の心をくすぐることか。
「もしお主がそういうものではなくとも、私の神力を注げば何の問題もなかろう。」
 目を丸くする狐の、その口元をくすぐるようになぞり、手を離せば、狐はまるで呪が解けたかのように口を開いた。
「小狐丸様!何かおかしなものでも食べられましたか!!」
 そんな事を言う狐に少しだけ苛立ったが、それよりもそれを言う狐が真っ赤なものだから、私はそれはそれは満足したのであった。



鈴蘭:「純粋」「純潔」「謙遜」「意識しない美しさ」
※使用したもののみ抜粋

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