五虎退+獅子王/きらきらのお星さま/目の話


 獅子王さんの目は不思議な目をしています。色は僕らの本体である鋼の色をしている筈なのに、光の反射で様々な色へと変化するのです。僕はそれがとても好きで、そのことに気がついた日からずっと近くで見たくて仕方がありませんでした。でも僕はそんなことを言い出せなくて、ひっそりと遠目でその目を見ていました。そんなある日に、獅子王さんと馬当番になってふとした拍子に初めてそのことを伝えたのです。
「ん、目? 気になるんなら、ほら」
 慌てて訂正しようとした僕に、そう返した獅子王さんは身を屈めてくれたのです。その事に僕は畏れ多くなったのに、それよりもその目に見惚れてしまいました。鋼色の目が、僕の目を映して黄金を帯びていました。そのきらきらとした輝きは、何処か既視感があって、でも何より美しいと僕は瞬きもせずにその目を見ていました。
 獅子王さんが少し疲れたと目を逸らすまで、僕はその目を見続けていました。
 それから馬当番を終えた夕方、夕日色に染まる本丸で獅子王さんと並んで歩きながらお風呂に向かいました。夕餉の前に土を落とし、それから夕餉を食べるのがこの本丸での決まりなのです。
 そうして夕餉を食べる時は獅子王さんと別れて、僕は兄さん達と並びました。獅子王さんは三条派のみなさんや同田貫さんの場所など、毎回ころころと場所を変えています。歌仙さんは落ち着きがないと呆れていましたが、僕はその社交的な姿がいつも眩しく思えました。

 そして夕餉を終えて寝間着に着替え、灯りを消して皆が寝静まった頃。急に目が覚めてしまった僕はそっと布団から抜け出しました。そこで一期兄さんと薬研兄さんがどうしたのかと眠そうに聞いてくれましたが、僕はそれに直ぐ戻りますとだけ伝えて部屋を出ました。それは僕が初めてする対応で、兄さん達は怪しんだだろうし、僕自身も何をしているのだろうと思いました。けれど、どうしても目が冴えてしまったので再び眠くなるまで布団にいるのは苦痛だと思ったのです。きっと兄さん達もそれに気がついたのでしょう、部屋を出る僕を止めないでいてくれました。

 部屋の外、夜の闇に月明かりが射し、華やかに桜が舞っています。その桜から離れた池のそば、そこに人影があったのです。その人が誰か分かった途端、僕は庭へと降りていました。
 その人は寝間着で庭の側の石に座り、そっと黒い獣を撫でていました。月明かりの下、下ろされた黄金色の長い髪が憂いを帯びたようにぼんやりと輝いていました。それは普段とはかけ離れたかのような姿だったけれど、見間違い様もなく獅子王さんだったのです。
 黒い獣、鵺を撫でていた獅子王さんがこちらを見てからりと笑顔になりました。
「どうした、眠れねえのか?」
 その明るい声に、ここは昼間だったのかと錯覚してしまいそうになります。あまりに夜とはかけ離れた、太陽のような雰囲気に僕は驚きます。でもその差は決して不快ではなく、むしろ僕の心の雲を晴らしていくようでした。
 獅子王さんは僕を隣に立つように勧めて、僕が隣に立ったことを確認してからそっと上を見上げました。そして、見てみろよと言うので僕も上を見上げれば、満天の星空がそこにはありました。
「綺麗だろ? たまにこうやって星を見るんだ。そうしてると五虎退みたいに誰かしらと会えるんだぜ」
 不思議だろと笑った獅子王さんに、そんなことをしていたとはと驚きました。 見上げた美しい星空にはどこか既視感があって、でも五虎退と会えると思わなかったとこちらを見て笑った獅子王さんに、僕は既視感の正体が分かりました。
「獅子王さんの目はお星さまみたいです」
 主様が与えてくれた絵本の中、描かれた星たち。きらきらと美しいそれは、僕の黄金色を帯びた獅子王さんの目によく似ていると。
 獅子王さんは少し驚いたように瞬きをし、それからにっこりと笑顔になりました。
「それなら五虎退の目だって星みたいだぜ!」
 綺麗だなあと僕の目を覗き込む獅子王さんに、僕が後ろに仰け反れば、獅子王さんは顔を離して楽しそうに笑います。
「さあ、そろそろ寝ようぜ! あ、眠れねえなら台所であったかいもんでも作るか? ほっとみるくなら作れるぜ」
 寝つきが良くなるらしいと楽しそうに提案してくれたそれに、僕はその提案を受け取りたくて、でも迷惑かなと考えて黙ってしまいます。けれど、獅子王さんはそれがお見通しだったみたいで、鵺を庭に離し、石から立ち上がってよし行くかと言ってくれました。
「早く行って、ゆっくりあったかいもの飲んで、眠くなったら眠ればいいってもんだろ?」
 そして台所へと歩き出した獅子王さんに、僕は慌ててついて行ったのでした。

- ナノ -