燭福/三角形の恋心/実→福、髭切→獅子王を含みます。二振り目概念あり。


 好きなひとに好きなひとがいたら。

「大好きってなんだろうね」
 乱は笑う。
「きっと、誰かひとりが良かったんだね」
 ただ、兄を自称する彼の刃は何より美しい。
「いつか福ちゃんも幸せになれるよ」
 輝かんばかりの乱の笑顔と、花が咲くような福島の微笑み。
 ああ、これが。
 目が見えなくなるということか。

「おい光坊」
「なに、鶴丸さん」
「何もどうもない」
 全くと鶴丸は呆れる。
「そんな顔で厨に立つな。少しは休め」
「疲労度は大丈夫だよ」
「数値だけじゃない、目に見えない心労なんだろう。獅子王が向こうで待ってるから行ってこい」
 この本丸の鶴丸は獅子王と仲がいい。はいと、燭台切は素直に従った。今日はきっと鶴丸が中心となって厨を回すのだろう。
 朝のにおいがする。すたすたと歩くと、声をかけられた。
「よっ、燭台切。お疲れ」
「獅子王君、お疲れも何もまだ朝だよ」
 しかも早朝。そう苦笑すると、違いないと獅子王はくつくつ笑っていた。
「それで鶴さんはなんて?」
「いや俺はなにも言われてないぜ。というか俺の方は髭切がな」
「ああ、二振り目の髭切さんが獅子王君にやけに引っ付いて回ってるよね」
「二振り目の方がなあ。俺を兄弟と勘違いしてるみたいで」
「あー、名前が似てるから……」
「俺の構成に全くその逸話が入ってないとも言えないからな。どうしろってんだ。今更俺に兄とか弟とかできても」
「そうだね。あと膝丸さんが発狂しそう」
「いや、二振り目膝丸が特に歓迎してる」
「なんで?」
「知らない……ただ二振り目の髭切と膝丸の教育係は俺だったな」
「それが全てなような気がする」
「やっぱ兄弟だのなんだのはただの口実かなあ。一振目の方は、というか髭切と髭切の仲が悪くて。俺は一振目の髭切と平和にすれ違うことすら厳しくなってて」
「友切だね……」
「なんで同位体でその判定が来てんのかわかんねえ」
「そうだね」
「とにかく俺は円満に本丸生活できればいいんだけど」
 獅子王はそこで湯呑みに茶を注ぐ。燭台切も自分で茶を淹れた。
「それで、燭台切の方はなんかあったのか?」
「あ、ああ、いやそういうわけじゃなくて」
「どういうわけ?」
「どういうわけでもないというか」
 じいと刃色の目に見られると、少し居心地が悪くなる。まるで切先を向けられてるような気がするのだ。
「福島さんのこと」
「ああ、福ちゃん? なんかあったのか?」
「なにもないよ」
「そうは見えない」
「あの、さ、秘密にしておいてほしくて」
「オッケー。この部屋はとっくの昔に鵺によって隔離されています」
「話が早い仕事が早い鵺君便利!」
「というわけでなんだって?」
 はは、と燭台切はから笑いを浮かべた。
「好きなひとがいるんだって」
 別に明確にそう言っていたわけではない。ただ、乱と福島がそういう話をしていた。誰が好きかは知らないし、兄の恋路を弟が過敏に気にするのはおかしい。でも、どうしてか。
「あのひとの、その"大好き"が叶わなければいいと思った」
 嫉妬とか独占欲とか、家族の情以上のもの。それらがいつの間にか自分の中に育っていたことを自覚したのだ。
「格好悪いよね。それに、奪うこともきっとできない」
「なんで」
 獅子王の声は淡々としていた。
「あんなに幸せそうな顔、僕が作れるとは思えない」
「そっか」
 ふむと、獅子王は言った。
「燭台切は福ちゃんが好きなんだな」
「う、まあそうなるかな」
「でも、略奪愛をしない」
「まあね、略奪したところであんなふうには笑ってくれない、から」
「でもまだひとつも行動してないんだろ?」
「行動?」
 そう、と獅子王は笑った。
「平安だったら歌のやり取りから。本丸だったら、手紙かな。携帯端末へのメッセージでもいい。あとは贈り物をしたり、会話を増やしたり、」
「いや、えっと」
「そういう何でもない行動すらしてないから、自分の心の整理もつかないんだろ?」
 心の整理。その言葉にすとんと落ち着いた。そうだ。今の燭台切は心が雑然としている。この心を整理して、片付けて、大切な思い出にすべきなのだ。
「ひとつずつ行動してみようぜ」
 俺も手伝うからさ。そう獅子王は明るく言ってくれた。

 かくして翌日。
 まず、同じ本丸にいるなら挨拶から始めればいい。毎日挨拶すること、それだけ。今は会った時に挨拶するだけだが、ちゃんと探して挨拶するのだ。
 この本丸では燭台切は伊達組と同室だ。のそりと起きて、早朝からいつも通りに朝の支度をする。福島も早起きで、園芸小屋にいると噂に聞いている。市場から仕入れた花を確認しているらしい。
 園芸小屋は裏門近くにある。小屋の近くには花壇があり、園芸係の手で園芸種の花々が咲き乱れている。
 そっと園芸小屋を覗き込む。福島は静かに花を観察していたが、すぐに戸口の燭台切に気がついた。
「あれ、おはよう、光忠。ここに来るなんて珍しいな」
「ええと、おはよう。福島さんは、花を見てるの?」
「そうだな。蕾の具合とか、水をちゃんと吸ってるかとか、切り口の様子を見てるかな」
「ひとつひとつ見てるのかい?」
「うん。いくら専門の業者でも見落としはあるからね」
 そうだ、と福島は鋏を手にした。パチンっと心地の良い音がする。
「このスイートピーをどうぞ。少し茎が痛んでたから、アレンジできそうになくてね。コップに入れておくなら丁度いいと思うよ」
「え、ありがとう。僕がもらっていいのかい?」
「構わないよ。捨てるより、誰かに渡した方が花も喜ぶだろ」
 その言葉になるほどと思う。それならば。
「何かお礼を渡さないとね」
「いや、それは」
「福島さんは好きな食べ物とかあるかい?」
「食べ物か……」
 ううむと福島は困った顔をする。食べることが好きな刀だとは知っている。だからこそ迷うのだろうか。
「クッキー、とか」
「クッキーが好きなの? 食べてるの見たことないよ」
「鋭いな。むしろ、あまり食べたことがなくて」
「最近の小豆くんは和菓子が多いからかな。じゃあ作ってみるよ」
「ありがとう」
 微笑む福島に、燭台切はまたねと笑って本丸屋敷に戻った。
 朝が過ぎ、昼となる。それまでにクッキー生地の仕込みをしておいた。小豆が以前作っていたレシピだ。午後になってから円形の型で型抜きして焼いた。冷ましていると、獅子王が駆けつける。
「ばっっっか!!」
「え、なんで?」
「何でこういう時にへっぽこなんだよ燭台切!!」
「いや何で?」
 贈り物の意味は調べようなと獅子王は言った。
 クッキーを贈るのは"ずっと友達でいよう"という意味にもなるらしい。
 また、スイートピーは"門出"や"別離"、"ほのかな喜び"や"優しい思い出"などだ。
「考え過ぎかもしれないけど、念のためな」
「でも欲しいと言われたのに」
「福ちゃんは花言葉とか暗喩的なメッセージに詳しいぜ」
「ううーん」
「というか何で燭台切は知らなんだよ」
「いや、そう言われてもさ」
 いくら僕でもね。
「好きなひとの前でそこまで頭が回らないんだけど」
「ああ、そっか、そうだよな」
 それもそうだ。獅子王は納得していた。
 結局、午後になってからおやつより少し早い時間に福島を探した。手にはクッキーを包んだ小箱がある。あまり飾り気はないが、センスは悪くないと思う。不安に思いつつ、福島がいそうな場所を探す。園芸小屋にはいない。出陣などの予定はない。
 そして、見つけたのは福島の部屋の前だった。縁側に座って図鑑を眺めている。
「福島さん」
「あ、光忠。お疲れ様」
「これ、約束のクッキーだよ」
「もう?! いいのか?」
「どうぞ。久しぶりに作ったから自信がないけどね」
「嬉しいよ、ありがとう。ここで開いていいか?」
「開いてみて」
 丸くて白いだけ。普通のバニラクッキーだ。それでも福島は嬉しそうにしている。しかし、獅子王が言っていた意味も気になるので、燭台切は続けた。
「その、今度また何か作ったら、受け取ってくれるかな?」
「勿論! 何を作る予定か聞いても?」
「……簡単な飴玉、とか」
 瞬間、ひくりと福島が体を震わせた気がした。しかし一瞬のことで、すぐにふわふわと笑っていた。
「嬉しいよ。光忠が作る飴玉はみんなが喜びそうだね」
 飴玉の意味は"あなたが好き"だ。
 離れて、燭台切は息を吐く。一瞬、福島の顔に浮かんでいたのは明確な拒絶だった。好きなひとがいることぐらい分かっている。それでもやっぱり理解したくなかった。でも、理解すべきなのだ。こうやって、燭台切は福島への心を整理していくのだから。

 それから毎朝、福島のいる園芸小屋に挨拶に向かった。朝の挨拶をすると、福島は時折、花を少しくれた。痛んでいたとか、早めに取っておきたくてとか。そう言って渡してくれる。それでも燭台切は嬉しかったし、獅子王と意味を調べては一喜一憂するのが楽しかった。花言葉とは広くあり、大抵の花が良い意味も悪い意味も含んでいた。
 対して、お菓子の意味はとても曖昧なものだったが、それぞれのお菓子の歴史を紐解けば理解できるものだった。
 また、福島が他の刀といるのをよく見かけた。というより今までは心に蓋をして、見ないようにしていたのだろう。気がついたら、本丸屋敷を歩き回る福島とは生活範囲が大きく重なっていたことに気がついた。というより、福島が歩き回っているだけかもしれない。
 福島の好きなひとは誰なんだろう。そもそもの性的趣向とかは、どうなんだろう。燭台切は気がついたら福島が好きだっただけで、特に同性愛者ではない。でも、そもそも刀という無機物である。性別とは何だろうかと思ったりもした。
 また、恋を諦めること、愛する気持ちを片付けること。それはとても難しいとも分かった。それは恋愛作品を獅子王と見てみたり、審神者の同期が運営している本丸で恋愛について聞いてみたりした結果だ。審神者の同期が運営している本丸に、審神者に同行させてもらった時が一番助かる。わりと恋愛経験のある同位体が多かったのだ。相手を詮索するような同位体はいなかったのも、安心した。

 そもそも獅子王の方もややこしいようである。二振り目の髭切があまりにも獅子王に声をかけてくるのだ。だから恋愛の話をする時は鵺による空間の隔離なんてことをしてるのだ。そして、差し出がましいようだが。
「髭切君は獅子王君のことが好きだと思うよ」
「うわあ、解釈違い」
「言い方」
 獅子王としては円満に落ち着いてほしいのだ。この本丸の獅子王は誰とでも仲がいい。その点は燭台切と同じだろう。ただ、ここの獅子王は明確に他者を切り分けている。境界線がしっかりしていて、心に足を踏み入るなと拒絶している。二振り目の髭切はそれが分かっているようで、分かっていない、曖昧なアプローチをかけて見えた。もちろんこれは燭台切という第三者からの視点である。
「なんか恋愛って大変だね」
「そうだな。俺は恋愛したくなくて、二振り目の髭切はよく分かんなくて、燭台切は恋愛を片付けたくて、福ちゃんは好きなひとがいる」
 こうやって福島に好きなひとがいると獅子王が言い切るのは、彼もまた、たまたま聞いたからだ。

 それは穏やかな昼下がり。獅子王が鵺を捕まえて洗ってやろうとしていると、福島が実休と小声で話をしていたのだ。
「福島、泣いてるの?」
「やだなあ、俺は幸せだよ」
「そういう嘘はよくない。僕でよければ話を聞くのに」
「いや、いいんだ。ただ、あのこが幸せならそれで」
「本当にそれでいいの?」
「そりゃあ、両思いになれたら嬉しい。でも、俺なんかじゃ振り向いてもらえないだろ」
「そうやって卑下しないで。僕の大切な子なのに」
「はは、言い方が誤解されそうだな」
「そうかもね」
 それから二人が離れていく。獅子王はこっそりと屋根に飛び上がって離脱したとかなんとか。

 その話を聞いて、とりあえず実休を好きなわけじゃないんだな、と少し意外だった。福島が特によく会う一振が実休だったからだ。あとは日本号ぐらいになるだろう。実休か日本号だったらもう背中を押してもいいと思えたのに、実休の線は消えた。ならば日本号かと思うが、あの反応は大抵の福島光忠の通常運転と言われてしまえば確かにと納得するのだ。これは他の本丸を見て知ったことである。
 ただ、獅子王は膨れっ面だ。
「実休は福ちゃんが好きなのかな」
「ええ、なんで?」
「だって、」
 "誤解"について否定も肯定もしていなかったから、と。

 朝の日課となった園芸小屋での挨拶。くれる花が初夏のものになってきた。もらった花は全て押し花にして、心が整備できたらまとめて捨てようと思っている。もちろん、同室の伊達の仲間たちは突然押し花を作り始めて驚いていたが、あまり触れないようにしてくれた。

 夜中、目が覚めてしまったので散歩していると、園芸小屋に光が灯っていた。すぐに行ってみると、福島が何やら冊子を見ていた。
「福島さん、」
「あ、光忠。こんな時間に会うのは珍しいな」
 いつも朝なのに、と言う福島は少し恥ずかしそうだった。髪はいつもと違って下の方でゆるく結ってあるだけ。手袋はしているけど、寝間着だった。
「そんな姿でここにいると危ないんじゃない?」
「確かに怪我しそうだけど……たまに眠れないんだ」
「眠れない? 寝つきが悪い、じゃなくて?」
「そう、眠れない」
 そういう日は小屋で過ごしているのだと福島は微笑む。その気恥ずかしそうな雰囲気に胸が高鳴る。ぎゅっと呼吸をした。
「入っていい?」
「どうぞ」
 するりと小屋に入って、福島のいる机に向かう。福島の高さに揃えられた机は、近くで見ると、高さを変えられるのだと分かった。
「何を見てるの?」
「園芸種の冊子。昨日、業者のひとが渡してくれたんだ」
 業者か。なるほど、その線もある。
 思わずそう考えて、嫌になる。福島の恋を応援するわけじゃないし、否定するわけでもない。ただ、燭台切は自分の心の整理をしているのだから。
「光忠は好きな花とかあるかい?」
「花……」
 正直、福島が見せてくれた花なら何でもよかった。でも好き、なら。
「バラとか、かな」
 一度も、福島が業者から仕入れているところを見ていないそれ。代表的な愛の花。福島は微笑んだ。
「バラはいいよね。最盛期は初夏だけど、人気の花だから通年注文できて、だからこそどの季節のアレンジに使っていても変じゃない」
「最盛期は初夏ってことは今なの?」
「そうだね。欲しいなら取り寄せるけど」
 どうする、と福島が見ている。赤い目が、燭台切を見ている。自然と溢れていた。
「欲しい」
 それなら注文してみるよと福島は笑っていた。その手が少しだけ震えていたのを、燭台切は指摘しない。ただ、息を詰めた。欲しいのは、福島の全てだ。

 夜通し、福島に寄り添うように、しがみつくように小屋にいた。そろそろ朝の支度をしないといけない時間になると、燭台切は部屋に戻った。支度を終えた頃に、珍しく早起きした太鼓鐘が目を丸くしていた。
「みっちゃんどうしたんだよ」
「なにが?」
「だって、泣きそうだ」
 苦しい。自覚をして、思わず部屋を出た。すると、曲がり角に獅子王がいたので、そのまま彼の手を掴んで厨に向かう。太鼓鐘は追いかけてこなかった。
「ど、どうしたんだ?!」
「獅子王君、どうしよう」
「なにがどうしたんだ?」
 苦しい。
「苦しい、苦しいよ、なんで僕じゃだめなの、」
「燭台切ちょっと落ち着けって」
「なんで、あのひとの好きが僕のものじゃないの」
「なんか、あったんだな」
「僕なら良かったのに。僕だったら、夜だってずっと毎日一緒にいるのに」
 福島さんをひとりにするようなやつは、嫌いだ。
「あれ、どうしたんだい?」
 ひょいと顔を出したのは歌仙だ。隣には小夜もいる。
「今日はこちらで朝食を作るよ」
「珍しいな歌仙。いつも近侍なのに」
「たまたま主が早起きをしてくれてね。突然だけど、厨番を代わってくれるかい?」
「なにか、使わなければいけない、食材があれば教えてください」
「特にない、よな?」
「そうか。ならば、そこの、あれ?」
 歌仙が厨の外を見る。獅子王がどうしたんだと声をかけると、いや、と歌仙は口ごもった。言ったのは小夜だった。
「実休さんがそこにいたので」
 手伝いをしたかったのか、と。
 燭台切と獅子王はさっと顔を青ざめた。

 結局、厨は歌仙と小夜を主軸に燭台切と獅子王も手伝った。元々厨に立つ刀ははっきりとは決まっていない。手伝える刀は手伝うべし、である。

 翌日の午後。おやつどき。燭台切がおやつを配っていると、実休がやってきた。
「ふたり分もらえる?」
「誰かと食べるの?」
「うん。福島と」
 微笑む実休に、燭台切はぴたりと固まる。そしてゆっくりと彼を見た。確かに微笑んでいる。だが、その紫の色が。
「実休さんはなんで福島さんと会うの」
「理由が必要かな?」
「だって実休さんは薬研くんや宗三さんだっていいんだよ」
「それは燭台切もだろう?」
 ああ、なるほど。
「話があるということだね」
「夜に僕の部屋へおいでよ」
 それだけ。実休はひとり分のおやつを手に去って行った。近くにいた刀の何振りかは、目を丸くしていた。
 その中には鶴丸と太鼓鐘と大倶利伽羅もいた。

 夕食の片付けなどを済ませた夜。実休の部屋に向かった。実休はひとり部屋のはずだ。織田に由縁のある刀が多過ぎて、彼らは相部屋ではないのである。
 かたん、と部屋の前に立つ。少し落ち着こうと深呼吸すると、中から音がした。
「実休?」
「大丈夫、安心して」
「何かあったのか?」
「こっちにおいで」
「だから何なんだよ」
 ひゅ、と息を飲む。中には、実休だけではなく、福島もいる。
「おい、酒でも飲んだのか」
「飲んでないよ」
「じゃあなんで、おい、こら」
「あたたかいね」
「触るな、俺はそういうことしないって」
「福島がしないとしても、僕はしたいよ」
「やめろって、来るな」
「手を取って、僕の目を見て、ね」
「やだ!」
 とんっと音を立てて戸を引いた。ばちんと目が合った福島がさっと立ち上がって部屋を出ていく。残された実休はくすくすと笑うだけだ。
「逃げられちゃった」
「何を、してたの」
「聞きたい?」
「……あなたは、そういう目で福島さんを見てるの?」
「そういう目?」
「あのひとが好きなんでしょう」
 くすくすと実休は笑う、笑う。
「それは燭台切も同じだろう?」
 さて、話そうか。実休は言う。
「直球に言うことを望んでいるみたいだから言うけれど、」
「……」
「福島のことを諦めてほしい」
 言われた。燭台切は実休を見る。実休は微笑みを浮かべたままだ。
「僕も福島のことが好きだよ。そうだね、いうなれば、燭台切よりずっと好きだよね」
「は?」
「だって、燭台切はろくに福島と会わないだろう? そんな燭台切より、僕の方が彼に合ってると思わないかな」
「そんなことで思いの丈を比べるつもりはないよ」
「そうかな? だって、福島には好きなひとがいるんだ。だったら振り向いてもらうために何でもしなきゃ」
 ねえ、燭台切。
「心の傷って何よりも深いと思わないかな」
 それはつまり。
「最低だ」
「体から関係が始まっても何も問題ないだろう。幸いにも僕と福島は大人の器なのだから」
「悪趣味だ」
「何を使ってでも手に入れたい僕と、ただ何もせずに泣いてるお前、どちらが、」
「だから何」
 実休が目を細めた。燭台切は淡々と言う。
「僕はあのひとのことを諦めない。あのひとが幸せになるなら応援する。でも、傷から始まるような関係は認められない」
「どうして?」
「たかが兄弟というだけのくせにって? ふざけるな。人の心を得た僕たちを愚弄するな。これは真っ当に、僕があのひとを幸せにしたいだけだ」
 そうして燭台切はその場から去った。

 たったと園芸小屋に向かう。彼の自室か、園芸小屋のどちらかにいると思った。
 そして、園芸小屋に福島がいた。
「福島さん、今いい?」
「あ、ごめん光忠、変なの見せて」
「別に構わないよ。大丈夫? 近寄ってもいいかな」
「えっと、ごめん、小屋に入らないでほしくて」
 はは、と福島は背を向けている。
「ごめん。苦しくて、本当、馬鹿みたいだ」
「……誰か、呼びたい刀とか、いる?」
「いないかな。こんな姿は見せられない」
「じゃあ、僕はここにいるね」
「え?」
 燭台切は小屋の戸口にもたれかかった。
「眠れないでしょう。ここに立ってるから」
「でも、」
「実休さんが来たら追い払おう」
「はは、強いな」
「僕は極でもあるからね」
「それは羨ましいな」
 はらはら、はらはら。涙が落ちる音がする。ぐずぐずと福島が泣いている。燭台切はただ、戸口に立っていた。

 早朝。そろそろ支度をせねばならない。声をかけて、福島を部屋まで送ってから、部屋に戻る。すると、明かりが灯っていた。起きてるのかと戸を引くと。
 鶴丸、太鼓鐘、大倶利伽羅、そして、獅子王がいた。
「燭台切、本当にごめん」
「いや大体察したよ。これはむしろ助かるかな」
 にっこりと燭台切は笑った。

 朝の身支度をしながらさっさと情報を共有する。
「なるほどな。俺が獅子王を押し付けたら光坊の方が先に大変なことになったわけだ」
「できれば福島さんを伊達部屋で保護したいんだけど」
「異議なし! あんな魔王に福ちゃんをやれるか!!」
「俺も問題ないぜ。獅子王もついでに保護しような」
「何で俺も?!」
「さくっと光坊に解説すると、昨晩は獅子王の部屋に二振り目の髭切が押し入ったんだ。そこをたまたま俺が見つけて乱闘騒ぎなる前にここに連れてきた。まあ、図られたな」
「……実休の入れ知恵だろう」
 大倶利伽羅の言葉でさっさと太鼓鐘と燭台切は福島の部屋に向かった。
 部屋について太鼓鐘が、伊達部屋で福島を保護したいという経緯を告げる。もちろん、燭台切が福島に恋愛感情を持っていることは言わない。福島はこくんと頷いた。
 それから厨には伊達と獅子王と福島がいた。全員で賑やかに朝食を作る。福島は厨に立ったことがないが、筋が良かった。食べるのが好きなので、勘がいい。フラワーアレンジメントをするだけあって、センスも良かった。
 そうこうして、昼過ぎに二振り目の髭切と二振り目の膝丸が獅子王目当てに来た時は鶴丸が対応した。対応途中に、太鼓鐘が走り、呼び寄せた援軍は小烏丸と鶯丸だった。ついでに大包平と八丁もいる。小烏丸は獅子王と回想仲間であり、鶯丸は鶴丸と元祖鳥太刀である。大包平については福島が大変だと聞いていたようで、根掘り葉掘りは聞かずに福島と共におやつを作り始めていた。八丁は応援である。
 かくして何やかんやと騒いだら審神者が腰を上げた。つまりは完全に話をつけるためのお話し合いである。

 審神者は別室にいるが、近侍の歌仙が指揮をとり、実休側と燭台切側での討論となった。実休側には薬研、宗三、長谷部が座り、燭台切側は太鼓鐘、鶴丸、大倶利伽羅が座る。燭台切と獅子王が福島の両隣に座っていて、実休はくすくすと笑うだけだ。
 実休はどうやら福島を手篭めにするためにあれこれとしていたことを全て話していたようだ。それは燭台切とて同じである。
 そして、実休も燭台切も明確に言わなかった言葉が、薬研と太鼓鐘の口から飛び出す。
「そもそも実休さんは福島さんに会った時に一目惚れしてんだ」
「みっちゃんだって福ちゃんに惚れてんだ。そこに長さや大きさ、重さの差はねえよ!」
 は、と福島が実休と燭台切を交互に見る。実休は微笑む。
「ごめんね」
「あ、いや、実休って、えっ」
「福島さん、怖いなら僕は離れようか?」
「光忠、まって、本当に?」
 驚く福島に、獅子王がぎゅっと抱きつく。
「獅子王様に任せろ! 絶対に守るからな!」
「ありがとう、獅子王君も多分このあとあるよ」
「ひえっ」
 とりあえず実休はしばらく福島に接触禁止、福島は伊達預かり、燭台切はしばらく福島とふたりきりにならないこと、と歌仙が閉廷した。

 そして続けて、獅子王関連の議論である。こちらは、二振り目の髭切と二振り目の膝丸に対して、鶴丸と一振目の髭切が問い詰めることになった。こちらも決定的な言葉が二振り目の髭切の口から出た。
「だって僕は獅子先生にしか勃たないからね」
 あまりにも直接的であった。ひえっと震えたのは獅子王だ。今度は福島が獅子王の手を握っている。
「あー、つまりだな。恋愛感情を持っているわけか?」
「そうだねえ。だって、獅子先生がいないと僕は戦場に出るつもりはないもの」
「へえ、刀剣男士としての役目も忘れたのかな? 言っておくけど、口実とやり口は最低だからね」
「兄者とて考えなしではないぞ、一振目の兄者。そもそも獅子王先生が俺たちに恋愛の手解きをしたのだ」
「すまん、鶴丸国永だが。一旦議論止めろ。獅子王、きみ何言ったんだ?」
「俺?! なんか言ったか?!」
「獅子王としては好きとか嫌いってどう伝えた?」
「え、飯の話ならしたかも……?」
「思い出せ」

「え? 好きとか嫌いとか?」
「うん。獅子先生はどう思う?」
「どうって、食べたいか食べたくないかじゃないか?」

「こんな感じ……」
「僕は獅子先生を食べたいなあ」
「すまん議論再開する。君な、それは食欲と混じってないか」
「性欲と食欲が近しいことは確かだろう」
「だからってねえ、二振り目の僕。だとしたらそれこそちゃんと教育係の獅子王か近侍の歌仙に相談すべきだよ」
「あのね、一振目の僕。獅子先生をどうしてもほしいなら多少強引でも仕方ないと思わないかな」
「思わないね」
「思わねえな」
 そこで歌仙の手により議論が止められた。こちらは二振り目の髭切と二振り目の膝丸に歌仙から直接指導となり、獅子王はしばらく伊達預かりとなった。以上、閉廷である。

 かくして、一連の伊達と織田騒動および、二振り目髭切の暴走は一度鎮まることとなった。

 夜、伊達部屋ではまだ布団を出していない。大倶利伽羅が無言で茶を淹れている。
「それで、二振りとも、今日から正式にしばらく伊達預かりだ。とりあえず運びたい荷物とかあれば、手伝うぜ」
「あー、俺は鵺が四次元ポケットだから平気」
「鵺君って本当に便利だね」
「鵺だからな。福ちゃんは?」
「俺も特には。あ、でも鏡はほしいかも」
「鏡? 何でだあ?」
「ほらこれ」
 福島はそっと耳元を見せた。ピアスである。
「俺は鏡を見ないと付けれないから……」
「鏡なら僕のを一緒に使う? 僕も身だしなみを軽く見るぐらいだから」
「じゃあ朝に借りられたらそれでいいかな」
「服は?」
「ああ、そうか。うーん。持ってこようかな」
「じゃあ俺がついていくぜ」
「お願いするよ」
 そうして福島と鶴丸が部屋を出る。獅子王と太鼓鐘はさて、と口にした。
「正直に言おうぜ燭台切」
「正直な、みっちゃん」
「あの、そこまで凄まないで」
「……福島をこの機会に落とせ」
 ああそれ言いたかったのにと獅子王と太鼓鐘は騒ぐ。大倶利伽羅はそっと茶を飲むだけだ。

 かくして福島と鶴丸が服を手に戻ってきた。
 茶を飲みながら談笑して、布団を敷く。伊達部屋には余りの布団があるので、足りないという問題はない。

 燭台切は部屋の隅、廊下側の布団が定位置だ。福島はその隣となった。それは恋愛がどうこうではなく本当に利便性というか生活サイクルの差である。燭台切も福島もかなりの早起きだ。部屋の奥に寝ていたら普通に困る。
 ころん、と福島の方を向く。皆、寝ているようだ。
「福島さん、寝れる?」
 小声だったが、福島にはちゃんと聞こえたらしい。こてんと福島も燭台切を見た。
「眠れないけど、たぶん疲労で寝てしまうと思う。昨日は寝てないから」
「そう。僕も寝そうだよ」
「良かった。昨日はありがとう」
「いいよ別に。それに、まあ、下心があるってバレてしまったからね」
「はは、驚いたよ。でも、うん。少し納得したかな」
「納得って?」
「きっとこうやって色んなことをこの本丸は乗り越えてきたんだなと思えたんだ」
 そのことが幸せだ。福島はそう嬉しそうに笑っていた。そのたわいもない幸せに、燭台切はそうだねと肯定して目を閉じた。

 翌朝。燭台切は起きててきぱきと朝の支度をする。福島も起きていたが、燭台切はすぐに背を向けた。寝起きの姿はまだ見られない。そもそも傷心中の福島にあまり男性らしい燭台切の姿を見せたくなかった。
 小さめの鏡台だ。そこに眼帯の替えなどを入れている。使い終わると、福島がやってきて、そっと豆皿を置いた。黄色をしていて、中にはピアスがあった。
「それは、」
「ピアス置き場として使ってるんだ。変なところに置いたら無くしてしまうかもしれないだろ?」
「そっか」
 にしてもピアスか。燭台切はふむと思う。
「福島さんはピアスの贈り物ってどうだと思う?」
「だいぶ重いと思う」
「そうなんだ。僕は贈り物の意味とかあまり知らなくて、最近調べ始めたんだけれど」
「そっか。ピアスはね、"どこに居ても自分の存在を感じていて欲しい"かな。普段は遠くに住んでる恋人なんかに渡すのは良さそうだけど、ちょっとしたお礼とかお土産なんかで貰ったり送ったりするには重たいだろう?」
「なるほど、そうなんだね」
 勉強になったよと燭台切は頷いた。
「園芸小屋に行くかい?」
「うんだからね、貞ちゃん行ける?」
「おう」
「え、起きてたの?」
「わりとさっき。もう支度できてるぜ」

 というわけで園芸小屋に燭台切と福島と太鼓鐘である。
「あ、ここまで来て今更だけど、ふたりとも、おはよう」
「そういやまだか! おはようふたりとも!」
「ふふ、ふたりとも、おはよう。うーんと、今日の花か……こっちにあるんだ」
 小屋の裏手にバケツに入った花が並んでいた。勝手に置いておく方式らしい。
 三振りで園芸小屋の中に運び込んで、太鼓鐘はお手伝いをする。燭台切はもう厨に行かねばならない。
「福島さん、ちょっといい?」
「なに?」
「とりあえず、僕だけは厨に行こうかと、」
「ちょっと待ったあ!!」
 走ってきたのは愛染だ。
「厨なら、歌仙がやるってさ! 近侍はしばらく他の刀が交代でやるからさ!」
「他の刀って?」
「加州とか安定!」
「また変わったところだね」
「そうかあ? まあ、これを機会に、色んな刀が近侍を務められるように訓練だな!」
 そういやさあと愛染は笑う。
「昨日の裁判、大変だったな。でも、ちょっと祭りみたいだった。これは騒ぎはしゃぐ祭りじゃなくて、良いまつりごとってことだ。うまくいくといいな、福ちゃん!」
 愛染は、愛染明王を背負う刀はそう笑った。

 そうして園芸小屋で、今でにまったく知らない知識つまり"花を扱う知識"を、太鼓鐘と燭台切は手伝いながら覚えた。全く知らない知識なのでそろってしばらく雑用係にしてくれと福島にせがんしでしまった。だって単純に面白いのだ。そもそも飾る事、芸事、それらは太鼓鐘も燭台切も好きなのである。福島はキョトンとしてから、微笑み、頷いた。

 朝食を摂るために三振りが食堂へ行くと、近寄ってきたのは薬研だった。
「あ、薬研どうしたんだよ」
「いや、実休さんから渡してほしいって言われてな。ただの手紙だ。まあ、恋文だな」
「ええっ!」
「実休って、恋文なんて書けるっけ?」
「え、僕を見ないで。書けるんじゃない? 知らないけど」
 福島が受け取り、その場で開く。そして、読んでから元通りに折りたたんだ。
「なるほど。まあ、受け取ったよ。ただ、返事はできない」
「ならば伝言はあるか?」
「しばらく頭を冷やせって言ってくれ。そして、俺も騒ぎにしてごめんって伝えてほしい」
「分かった。福島さんは、強いな」
「強くはないよ。ただ、実休が心配なんだ。普段からふらふらしてるから、もし強いショックとか受けてたら」
「ああ、その辺は心配ないさ。おそらく、福島さんにもう無理強いはしない。ただ、どんなことがあっても、また燭台切さん、福島さん、実休さんの三方でもう一度、喋ってやってほしい。これを機に絶縁とかは御免だからな」
「もちろんだよ」
「僕も問題ないかな」
「助かるぜ」
 そうして朝食後に、福島の本丸内でやりたいことを昼食までに片付けた。
 さらに昼食後。今度は伊達部屋である。
 伊達預かりも含めた六振りでトランプやボードゲームを行う。わいわいと遊んで獅子王と太鼓鐘が昼寝をしていて、鶴丸が飲み物を取りに行っている。大倶利伽羅は縁側に座っていた。そこには燭台切と福島もいる。
「俺のことは気にするな」
「気にするなと言われても」
「福島さんは僕こそ怖かったりしない?」
「光忠が? なんで?」
 不思議そうな福島に、だってと燭台切は言う。
「僕が、あなたの怖がるようなことをするかもしれない」
「それは無いよ」
 だって光忠は優しい。それに今回の実休は、ちょっと強引に出ただけで、心根は穏やかなのだから、と。
「じゃあどうして、」
 そこからは言葉にすべきか悩んだ。このことに触れたら、告白することになる。それは、実休に対して不誠実だ。だから、我慢した。
「光忠、」
「近いうちに考えをまとめておくね」
「そうかい?」
 福島は不思議そうにしていた。

 それから夕飯を経て、夜。審神者からの通達として小夜がやってきた。議論によって決まったしばらくの期間が、明日から一週間と決まったのである。

 一週間、伊達預かりとなった福島と獅子王と共に、燭台切たちは過ごした。福島にはたまに実休から恋文が届き、獅子王には毎日和歌が届けられた。福島は返事を出さない。獅子王もまた、整理がつかないからと返事は出さなかった。

 そうして一週間後。燭台切と福島と実休は空き部屋にいた。言うべきことがあるからだ。
 まず、実休が口を開く。
「手紙で告白した通り、僕は福島のことが好きだ。励起してからすぐに会って一目惚れした。教育係でもない福島につきまとって、世話を焼いてと強請ってごめん。ただ、本当に好きだよ。できれば、福島を奪いたかったんだ。ごめん。告白を断わっていい。でも、これからも兄でいさせてほしい」
 それからと燭台切が続いた。
「ずっと隠していて、ごめん。あんな風に気持ちを晒して、こんな形で告白することを情けなく思う。それでも、僕は僕なりにあなたのことがずっと好きだ。いつから好きかと言われたら、分からない。ただ、あなたに好きなひとがいると聞いてから、僕はおかしかったと思う。ごめんなさい」
 ならばと口を開くのは福島だ。
「まず、実休の気持ちには応えられない。なぜなら、実休は俺の気持ちを知っているから、だね」
「うん、分かってる」
「知ってるって?」
「光忠。聞いてくれ」
「な、なにを?」
「俺は励起してすぐに会えた光忠に恋に落ちてる。そして、誰にでも愛される光忠を愛している。だからね、ふたりともこの一連の恋愛騒動の大元は俺だった。そうだろう?」
「え、えっ?」
「そうだね」
「俺こそが罰を受けるべきなのかもしれないとすら思う。好きなのに臆病で、ずっと光忠を避けていた俺がばら撒いた種が芽吹いただけだった。ふたりとも、ごめん」
「……」
「そして、その上で、俺は光忠に言う。俺は光忠が、好きだよ」
 福島の好きなひとは燭台切だった。その答えに燭台切は驚いて、胸の内側からぶわりと感情が溢れる。こくりと、燭台切は頷いた。

 そんな話し合いの同時刻。獅子王と二振り目の髭切もまた、縁側で会っていた。
「ごめんなさい獅子先生」
「おう」
「獅子先生のことさ、」
「あ、やっぱり違ったか?」
「ううん。ちゃんと好きだってわかった」
「そう言われても、俺は別に」
「獅子先生の心に僕がいないことは分かってる」
「そうだな」
「だから頑張る。獅子先生に好きになってもらうために」
「……まあ頑張りすぎて怪我とかしなければそれでいいよ」
 苦笑する獅子王は少し照れていて、隣に座る髭切は彼の額に口付けを落とす。
「ありがとう、獅子先生。頑張るね」
 はくはくと驚く獅子王に、髭切はふうわりと笑っていた。

 伊達部屋から荷物を持って福島の部屋まで福島を送る。時刻は夜。福島の部屋の前で、伊達部屋にこのまま帰るか悩んだ末に、あのさと燭台切は口にする。
「布団持ってきて一緒に寝ていいかい? あと、これから福島さんが眠れない日は起こして」
「えっ、えっ?」
「大丈夫。本当にただ寝るだけだから。部屋から布団持ってくるね」
 福島がいいよと言うと、燭台切はたったかと伊達部屋から布団を持っていく。太鼓鐘たちはただ頑張れと笑っていた。

 初めて入った福島の部屋は存外広く、ちゃんと二組の布団が敷けた。
「おやすみ、福島さん」
「おやすみ、光忠」
 あのね、
「福島さん、大好きだよ」
 ふわ、と花のような笑顔。
「俺も光忠が大好きだ」


・・・
おまけ

燭台切
・わりと天然で少し抜けてる祖。福島への思いの自覚は遅かったが、だからと言って譲れるほど可愛らしい性質ではなかった。
・この後、福島と同室になる。少女漫画みたいな優しい触れ合いを好む。だぶんR18をするまでが遅いが、一度触れたら止まらなくなるタイプ。

福島
・恋する乙女(男)。燭台切が好きだけれど、付き合おうとは思わなかった。燭台切の幸せが最優先。あんまり出てこなかったけど、乱と仲良し。
・この後、燭台切と同室になる。好き同士なんだと自覚&寝る時と起きる時に好きなひとがいることに混乱している。ゆっくり進んでいきたい。

実休
・恋する魔王様。福島の好きなひとをすぐに見抜いた。励起してすぐ福島に一目惚れ。一途。燭台切の思いも見抜いていた。
・燭台切と福島が恋仲になろうと、福島のことを諦めたわけではない。いつでもおいでと笑っている。

獅子王
・教え子に恋された先生。
・会わない間の和歌で、二振り目髭切にだいぶ絆された。この後、二振り目髭切の頑張りにさらに絆されそう。それはそれとして一振り目の様子もなんかおかしいなと思い始める。

二振り目髭切
・先生に恋をした。だいぶ食欲と性欲がごちゃ混ぜになっていた。今はわりと分けて考えられる。何かにつけて好き嫌いの多い偏食。
・この後は振り向いてもらえるように頑張る。ちょっと行き過ぎては周囲に怒られる。3歩進んで2歩下がる。を繰り返す。

一振り目髭切
・二振り目を一方的に嫌っている。獅子王に恋愛感情はないはずだが、二振り目が獅子王に引っ付いて回るのは酷く不快。獅子王は本丸の仲間ではある、という印象だった。
・この後、二振り目が周囲に見守られているのにもやもやして、獅子王を特別に気にかけるようになる。結局は鶴丸辺りに「好きなんだろ」って言われて否定できなくなる髭切がいる。頑張りたいけど、鬼になりたくない。理不尽な恋をするには青さが足りない。

鶴丸
・そもそもの問題提起をした張本人とも言える。俺の顔見知りたちが修羅場。基本は何かにつけて生きるのが楽しいタイプの鶴丸。
・この後、燭福の進捗に胃を痛め、髭→獅子の片思いにスン……てなる。

その他の皆さん
・基本的に仲がいい本丸。基本の近侍は歌仙。
・部屋割りは由縁のある刀で適当にまとめられているが、要望があればいくらでも部屋を用意してくれる。
・多分他にも恋愛関係のある刀がいるが、騒ぎを起こさない限りは特にお咎め無し。

続くとしたらR18編になる。

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