実福/まだ愛を知らない/現パロ(?)人間×吸血鬼パロ/両片思い


 実休は吸血鬼を飼っている。

「ただいまあ」
「あ、おかえり」
 夕方、仕事から帰ると、ひょいと福島が顔を出す。今日はビーフシチューを作ったぞと、彼は笑った。
 福島は吸血鬼だ。吸血を嫌って倒れていたところを実休が拾ったのである。実休がもしやと調べると、遠縁の親戚だったので、これ幸いと説き伏せて同居している。
 吸血鬼は血の代わりに真紅のバラを食べるとも言う。だが、福島はそんなことはできなかった。でも、実休は必ずバラを買って部屋に飾っていた。
 ビーフシチューを食べて、福島が甲斐甲斐しく家事をするのを見る。吸血鬼らしく朝に弱いので、昼頃に起きて諸々の家事を始めるらしい。
「風呂に入れよ」
「うん、そうするね」
 さて、福島と実休が遠縁の親戚とはいえ、実休は吸血鬼ではない。先祖が吸血鬼だったとは聞いているので、福島は先祖帰りというやつだろう。福島からは詳しく聞いていないが、風当たりは強かっただろうと察せられた。
 現代において、吸血鬼は希少種だ。その特性も相待って、迫害されやすい。ただ、受けようと思えば医療機関で血液パックがもらえたりと、福祉はそれなりにある。福島は嫌うけれど。
「お風呂から出たら、部屋においでよ」
「部屋もなにも、この家は寝室が一つしかないだろ」
「うん。おいで」
 ううと、福島が不満そうにするので、実休は苦笑してから風呂に入った。

 風呂から出て、福島をベッドルームで待つ。がちゃりと扉が開いて、風呂上がりの福島がやって来ると、実休はやあと顔を上げた。
「本でも読んでればいいだろうに」
「福島が待ちきれなくて」
「そういうことは言わなくていいんだよ」
「事実なのに?」
 ほらおいで。そう手を広げると、福島がするりと腕に収まる。そっと唇に指を寄せると、告げた。
「今日の分をお飲み」
「……いやだ」
「飲まないと倒れちゃうよ。僕が困っちゃう」
「ずるい」
 あ、と開いた口に指を入れて、鋭い牙を撫でると、つぷりと血が溢れた。
 ちうちうと福島が血を吸う。彼はそう多くの血を必要としないらしい。しばらく吸うと、ぺろりと傷口を舐めて止血してから口を離した。
「ん……」
「いいこだね」
「子どもじゃない」
「僕が福島を可愛がりたいんだよ」
 さて寝てしまおう。実休が寝転がると、福島も寝転がる。これからこそが活動時間なので、福島は寝ないが、それでも実休に体を擦り寄せて寝転がっていた。
「実休は俺が気持ち悪くないのか」
「どうして? こんなにかわいいのに」
 何度も繰り返した問答に、ばかと、福島は複雑そうに言う。
「俺は自分が嫌いだよ」
 実休を食べなきゃいけないのが嫌だ。そう言うので、実休はくすりと笑う。
「僕は福島を縛り付けられてうれしいけどなあ」
 幸せだよ。そう言うと、福島は何もかも答えずに、ぎゅうと実休に抱きついたのだった。

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