燭福/おおかみさんの悩み/両片思い


 夜になる。燭台切と福島は本丸の庭にいた。東屋で月を見ながら熱い茶を飲む。冬の終わり、夜はまだ寒い。
「光忠、月がよく見えるね」
「あなたも光忠でしょう……うん、良い月夜だね」
「まるで光忠の目みたいだ」
 福島が見上げる月は満月にほど近い。完全なる満月の方が絵になるのだろうか。光忠は絵画のことはわからない。
 ただ、目の前の福島が美しいことは分かった。
「お茶のおかわりならすぐに淹れるからね」
「ありがとう、光忠」
 福島は月を見上げて、とろりと笑っていた。

 翌朝、燭台切が朝の身支度を済ませて部屋を出ると、福島が花を抱えて通りかかったようだった。ふわりと、花の香りがする。
 燭台切も福島も一人部屋だ。燭台切は厨番を引き受けているし、福島も練度上限に至ってからは本丸中の花の管理を任されている。どちらも他の刀と生活の時間が異なるため、適切な対応だと皆が考えていた。
 厨に行くと、歌仙と小夜が先に居た。今日の献立を食糧庫を眺めてから手早く考えて、手分けして作っていく。太鼓鐘などが手伝いに来てくれて、わいわいと朝餉を作る。
「そういや、福ちゃんが贈り物もらってたぜ」
「え、あのひとが何、どういうこと貞ちゃん」
「食いつくなあ。まあ、そうだよな。心配しなくても広光の二振りからだって」
「そっか。何をもらってたの?」
「さあ?」
 本当に知らないらしい太鼓鐘に、燭台切はもやもやとしたものを抱えながらネギを刻んだ。

 その日の夜。厨の食糧庫のチェックをしていると、ふわりと花の香りがした。この香は、と顔を上げると、福島が寝間着姿で立っていた。
「光忠、この香り、どうかな」
「良い匂いだと思うよ。誰からもらったの?」
「もらったというか、注文したんだ。手を離せなかったから、受け取りには広光の子たちに頼んだんだけどね」
 今日届いたんだ。そう笑う福島に、どっと体の力が抜けた。すんと鼻を鳴らすと、福島から甘い花の香りがした。クラクラと誘うような香りに思えて、燭台切は息を吐いた。
「気に入らなかったかい?」
「違うよ。あんまり魅力的だから困っただけ」
「ええ?」
 なにそれ。福島がくつくつ笑うので、燭台切は立ち上がって手を伸ばした。不思議そうに見つめる彼の、その腰をするりと撫でて抱き寄せる。
「あんまり無防備だと、食べられちゃうよ」
「誰に?」
「僕みたいなの、に」
 頬を撫でると、福島は頬を染めてとろりと笑った。
「光忠ならいいかも」
「……もう」
 本当にこの刀は魅惑的だから。
 燭台切は、そういうのはまだ早いよと頬に口付けをしただけに留めたのだった。

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