実福/僕の花/実→(←)福。押せ押せ実休さんと無自覚福島さんです/雰囲気バレンタイン


「福島、なにしてるの?」
「花束を作ってるんだよ」
「どうして作ってるの?」
「審神者からの依頼。大切な人に贈りたいんだって」
「じゃあ審神者自身が作るべきじゃないのかな」
「花の指定はあるよ。審神者なりに、考えがあるんだろうね」
「ふうん」
 不満そうな実休に、福島は笑う。
「そんなに俺が手間暇をかけるのが不満か?」
「だって、僕は福島から花をもらってない」
「欲しいなら作るよ」
「そうじゃない」
 むうと実休は福島の背中に頭を押しつけた。重たいと、福島が言うと、実休はそっと福島の背を撫でた。
「ひゃっ、ちょっと、くすぐったい」
「花束を頂戴。気が向いたらでいいから」
「そう? 指定はある?」
「なにも」
 なにもないよ。実休は福島の腹に腕を回して、後ろから抱きつく。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、大きな子供みたいだなと福島は呆れた。
「分かった、俺の好きな花で作って渡すよ」
「うん、それがいい。僕もなにか考えておくね」
「贈りあいってこと? いいな、それ」
 どんな花束にしよう。実休に向けるのなら、緑色の花がいいかもしれない。福島が楽しく考えていると、実休がやや楽しそうに頬を背中に寄せる。
「あったかいねえ」
「そりゃ、刀剣男士にも体温はあるからね」
「何を贈ろうかな。僕のお気に入りにしようか」
「秘密じゃないんだな?」
「ふふ、秘密だよ。でも、少しだけ、教えてあげる」
 ふうっと耳に息が注がれる。ぶるりと震えると、実休が囁いた。
「きもちいいことがいい?」
「ひ、う、は??」
「冗談だよ。特別な薬草茶を作ってあげるね」
 香りは内緒。そう笑う実休に、福島は動悸をなんとか落ち着かせようと息を吐いた。

 花束を届けて、福島はさてと庭を見る。本丸の庭には花がいくつもある。実休の庭とはまた違うものだ。
「薔薇かな」
 柔らかく咲く薔薇は、国によっては通年の花だ。審神者の計らいで、薔薇は年中咲いている。この本丸には薔薇を好む刀が多かった。
 紫色と緑色、あとは小さな赤も少し。摘み取って、部屋に向かう。
 花束を仕立てて、赤い紐で飾る。
 実休に渡そう。そう思って、彼の部屋に向かう。やあ、と薬研が声をかけてきた。
「旦那に贈るのか?」
「実休にね、薬研くんも何かあったのかい?」
「俺っちは何もないぜ」
 ただ、と言った。
「体調不良ならいつでも相談にのるぜ」
「うん? ありがとう?」
「おう。じゃあな、頑張れよ」
「へ?」
 すたすたと去って行く薬研に疑問を覚えながらも、実休の部屋に着く。声をかけると、戸が開かれた。
「いらっしゃい。座ってね」
「うん。これ、花束」
「きれい、薔薇だね」
 嬉しいよ。実休が微笑み、花束を花瓶に飾る。花瓶を用意してあったようだ。
「今、薬草茶を淹れるね」
 薔薇の香りと、薬草茶の香りが混ざる。薬草茶は淡い赤色をしていた。
「少し酸味があるよ」
「酸味なら平気。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
 柔らかな薬草茶を飲みながら、たわいもない話をする。二振りとも、しばらくの暇をもらっているので、何を休暇に行うかを気軽に話す。
「ねえ、部屋を一緒にしない?」
「なんでだ?」
「その方が都合がいいから」
「なんの都合だよ」
 きょとんとすると、実休はそうだねと口にする。
「いつでも福島を独占できる、かな」
「それっていい事?」
「きっとね」
 どうかな。実休の提案に、福島は頷こうとして、薬研の言葉が過った。
 まさかね。そう思いつつも、福島は躊躇う。実休はすうと目を細めた。
「大丈夫。無理にすることはないから」
「なに、を?」
「内緒」
 その艶やかな笑みに、福島は手で顔を覆った。
「ちょっと考えさせて……」
「いいよ」
 警戒されちゃったと、実休は笑っていたのだった。

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