どたばた聚楽第!/こりゅ蜂/髭切、獅子王、愛染、蛍丸もよく出てきます。/力尽きました。続いたらいいな。


 単刀直入に言うと。
「おつかい、かい?」
 蜂須賀が瞬きをする。近侍の長谷部が、そうだと頷いた。
「同行者は小竜だけは決まってるな」
「それはなんでまた」
「特殊な任務になる。小竜と蜂須賀なら並んでいても見目がいいから誤魔化せる」
「ええと?」
「見た目で殴れ」
「どういう……?」
 そこへ、ちょっとどういうことと小竜が執務室に飛び込んできたのだった。後ろから鶴丸が追いかけてきていた。小竜への伝令役は彼だったのだろう。
 審神者曰く、他の本丸と合同訓練らしい。
「この本丸からは打刀一振りと太刀一振りを出す約束になっている。そこで、蜂須賀と小竜に頼みたい」
「合同訓練とは……?」
「現地で全六振りの部隊を結成し、聚楽第を突破、だな」
「ただの特命じゃないのそれ?!」
「酒の席で決まったんだ。恨むなら発案者の主の友人の友人が設けた席にたまたま居合わせた審神者を恨め」
「いやそれただの他人じゃん?!」
「ええと……俺と小竜くんが選ばれたのは、極であり、練度が高いから、かな」
「あと見た目だ」
「あ、えっと、そう……」
 兎も角、聚楽第はとっくに突破して優評価も貰えているので、気楽に行ってこいと鶴丸が笑いながら言ったのだった。

 小竜と蜂須賀が戦支度を済ませて門の前に向かうと、こんのすけが特命調査用の門を開いた。
「何かよく分からないけど、よろしくね、蜂須賀くん」
「うん。よろしくね、小竜くん」
 そうして二振りは時を越えた。

 特命調査の地、聚楽第には、すでに愛染と蛍丸がいた。どうやら二振りは違う本丸らしいが、愛染と蛍丸だからなのか、すぐに打ち解けており、蜂須賀と小竜にも気楽に接してくれた。あと二振りは誰だろう。そんな話をしていると、すっと刀が飛んできた。
「やあやあよろしくね」
「よろしくな!」
 髭切と獅子王であった。え、そこ?
 奇しくも、全員が修行を終えており、太刀には馬が与えられ、遠戦装備を持たされ、蛍丸が練度99というゴリ押し編成だったため、本当に審神者の道楽じゃないかと小竜が頭を痛めていた。
「たぶん聚楽第の期間が終わるまで帰還できないし、仲良くしようぜ!」
「うんそうだね兄さん」
「俺は兄さんじゃねえよ!!」
「えっと……」
「あ、そういう個体?」
「たまにあるよな、髭切の誤認騒ぎ!」
「俺のところは、とくにないなー」
 大丈夫なのだろうかと蜂須賀が不安そうにすると、小竜はまあ大丈夫だよとぽんぽんと蜂須賀を安心させた。

 賽の目の分だけ戦闘がある。運がいいのか、それなりに大きな値を引いた。だが、これは期間が終わるまで帰れないのだ。道楽のようなものなので、なるべく戦闘は避けたいなと蛍丸が冷静に言った。食料は刀剣男士として必須ではないが、野営はきちんとしたほうがいい。寝込みを遡行軍に襲われるなんてことになったら大変だと髭切がのほほんと言った。
 火の番は二振りずつだ。蜂須賀と愛染がちょこんと火の番をしていると、他の皆は寝ていた。
「なあなあ、もしかして蜂須賀さんと小竜さんって恋仲なのか?」
「え、ええっと、そういうわけじゃないけど」
「そうなのか?」
「告白は、されたかも」
「返事に困ってるのか?」
「そうだね。だって……」
「うん?」
「いつ折れるとも分からぬ身じゃないか」
 ああ。愛染は目を細めた。きんいろの目が炎の揺らめきで輝く。
「蜂須賀さん、現世じゃ、もう、薄いもんな」
「汲み取ってくれてありがとう」
「でも、ここじゃ、たぶん相当無茶しないと折れないだろ。蜂須賀さん練度80なんだろ?」
「まあ、それはそうだけど……」
 愛染は、その彫り物を掲げるように笑う。
「本丸って夢現だ。夢幻だ。なあ、刀が誰かを愛したって、だれも非難しないぜ?」
 そうだろう。愛染の眩い笑みに、蜂須賀は微笑みを返した。

 聚楽第の中で、獅子王がどろどろだから水浴びしたいと言い出したので、水浴びできそうな場所を探す。聚楽第から少し外れた森の中、泉があったので、獅子王ががちゃがちゃと戦装束から武具を外した。そのまま入ろうとしたので、髭切がやんわりと止めた。
「なんだよ」
「服を脱ぐといいよ。男士しかいないから、気にしないで」
「そうかあ? あ、蜂須賀も入るか?」
「えっと、俺は」
「少し足を浸すだけでも気分がいいと思うぜ。とりあえず俺は脱ぐ。皆、見張り頼むな!」
 さらりと獅子王が服を脱いでいく。何だか見てはいけない気がして、蜂須賀はそっと目をそらした。そして足の武具だけ外して、水に浸した。
「で、さあ」
「なんだい髭切さん」
「だよねえ」
「なになに、蛍丸くん」
「「もどかしい」」
「うわっ」
 髭切と蛍丸と小竜は水浴びをする獅子王と蜂須賀に聞こえないように話す。なお、愛染は真面目に見張りをしていた。
「何、告白はしたの?」
「……誰に」
「蜂須賀さん」
「うわあ、そんなに分かる?」
「分かるよ」
「俺も分かる」
「どうしてだい?!」
「いやもう視線が。ねえ、蛍丸くん」
「そうだよ、髭切さん」
「嘘でしょ……」
 とりあえず、と髭切は頷いた。
「ふたりが聚楽第が終わるまでに結ばれるのが任務かな」
「そーだね」
「絶対に違うよね?!」
 小竜が頭を抱える横で、髭切と蛍丸はうんうんと同盟を組んでいた。なんてことだ。
「なあ、蜂須賀」
「うん、なんだい獅子王くん」
「誰かを愛するってどんな気持ちなんだ?」
「えっと?」
「すきなんだろ?」
 きょとんとする獅子王に、蜂須賀は、まあねと口にした。
「好きだけど、だからすぐに恋仲になるのは、違うだろう」
「そうなのか」
「獅子王くんは恋仲がいるのかい」
「居ないぜ」
 でも、きっと俺には一生分からない。鵺が泉の縁で微睡んでいるのを見ながら言う。
「俺の愛情は、きっと、鵺由来で、じっちゃんにだけ向けられるものだから」
「そんなことは……」
「そういう壁を破る刀がいるんじゃないかって?」
「うん」
「分かんない。きっと居ないと思うぐらい、俺は、じっちゃんが好きだ」
 ああ、この刀は。蜂須賀は獅子王を通して遠くを見た。
「あなたは、かの公のために、仕立て直されたのだったね」
「うん。だから、髭切の兄じゃない」
「そうなるね」
 好きになるってどういうことか。蜂須賀は控え目に言う。
「俺の場合、だけれど。とても、大切にしたくなる」
「ふうん」
「ずっと一緒にいたくなる」
「そう」
「もっともっと、触れ合いたくなる」
「そうなのか?」
「そうだよ」
 これがね、蜂須賀が恥ずかしそうに頬を染める。
「愛ってやつだね」
 獅子王がううむと首を傾げた。蜂須賀はそういうものだよと言う。
 ところで。
「獅子王くんと髭切さんは同じ本丸なのかい?」
「いや、審神者同士は仲良しだけど、別の本丸だな」
「あ、そうなんだ……?」
 なにか引っかかる。そう思いつつも、蜂須賀はやんわりと頷いた。

 戦闘である。
 愛染が走る。太刀の先制攻撃が発動。遠戦装備、展開。遠戦により刀装が剥がれた敵に、愛染の刃が迫る。獅子王が鵺と暴れ、髭切が一太刀で敵を折る。小竜と蜂須賀もしっかりと敵を仕留めた。残る敵は蛍丸が露払いを済ませる。
「めちゃくちゃ楽!!」
 愛染の言葉に、全員が本当にそうと頷いた。
「最初に聚楽第突破したときのこと、兄さんは覚えてる?」
「兄さんじゃねえよ。最初はうちは優もらえなくてさー」
「俺は反復横跳びだったなあ」
「俺たちのところもだね」
「うん、そうだね」
「まじか」
「兄さんのところはまだそこまで刀が育ってなかったんもんね」
「兄さんじゃないから。まあ、初めての催事だったし」
「もしかして、獅子王さんのところが一番若い本丸か?!」
「そうかもな!」
 そこで、待ってと小竜が眉を寄せた。皆が息をひそめると、小竜が一気に振り返る。蜂須賀が刀装を展開した。
「そこだね!」
「投石いくよ」
 投石、その後の小竜の攻撃より、潜んでいた遡行軍が倒れた。
 気が抜けないなあ。小竜が息を吐くので、一応は戦場だもんなと獅子王が苦笑する。
「じゃあ今日のサイコロ終わったら何する?」
「あ、僕、トランプ持ってきてるよ」
「とらんぷとはなんだい……?」
「俺と蜂須賀はあまり覚えがないな」
「遊びながら覚えよう。愛染くんと蛍丸くんはどうだい?」
「いいぜ!」
「おっけー!」
「俺には聞かねえの」
「兄さんはトランプ強いじゃないか」
「兄さんじゃない!」
 そこで愛染が、夜ふかしだけは禁止なと野営の薪を集め始めたのだった。

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