こりゅ蜂/ただいまとおかえり


 派手なことは何もなくて。ただ、好きだと確認しあって、そろそろ一年だね、なんて話を蜂須賀がしていて。そっか、一年か。と長い刃生の一瞬に過ぎない筈の時間が、やけにきらめいていたから。
「結婚しよう」
 ぽろっと口から溢れていた。蜂須賀はぽかんとしていたけれど、ふわりと頬を染めて嬉しそうにお受けしようと言ってくれた。だから、シチュエーションだとか、何をどうするとか、なんにも考えなかった。

 蜂須賀と結婚したいと審神者に直談判すると、近侍の長義が目を丸くして書類を落とし、審神者はペンを握ったまま、ガッツポーズをした。そのままこんな幸せなことはないと言ったかと思うと、とりあえず同派に挨拶しておいでと執務室から蜂須賀と小竜を追い出して、長義の、何をするつもりだいという叫び声が聞こえた。
 まず、虎徹の方に向かうと浦島は喜んでくれた。もう一振りも涙ぐんでいた。言葉は少なかったが、どちらも喜んでくれたので良しとする。ついでに清麿と水心子も喜んでくれた。
 そして問題は長船である。結婚したいと伝えると、まず審神者に報告したかを確認され、肯定すれば良しと彼らは笑顔になった。
「料理は任せて。祝いに相応しいものを作るよ」
「使う花は俺が用意しよう。蜂須賀くんも小竜くんも華やかだからね、存分に飾ろう」
「すいーつはまかせておくれ。さいきんペティナイフをしんちょうしたところなのだぞ」
「おてつだいできることはなんでもするぞ!」
「いやあ、めでたいね。使う道具達は俺に選ばさせてくれるかな?」
 怒涛の勢いである。蜂須賀はぽかんとした。小竜は頭を抱えて、とりあえずという。
「審神者と近侍と初期刀の許可を得てくれれば何でもいいよ……」
 祝いだもの。多少頑張ってもいいかなって。

 そうして本丸で結婚式を執り行うことになった。歌仙と篭手切を筆頭にした衣装部隊が、紋付袴と白無垢を用意した。刀剣男士ではあるけれど、と篭手切は控えめに言う。
「おふたりは華やかですから、白無垢も似合うかと」
「勿論、男士だからね、嫌なら断ってくれていいんだ」
 歌仙の言葉に、蜂須賀が控えめに言う。
「白無垢を着たいかな」
「え、いいのかい?」
「似合わないだろうけれど、華やかなのは嫌いじゃないからね」
 あ、この刀の戦装束も内番着も金ぴかだったわ。小竜は思い出した。
 長船プロデュース、その他の刀たちも好き勝手暴走した結婚式は、賑やかなものだった。審神者がおいおいと泣きながらも、二振りの門出を祝うとのスピーチははきはきと行っていた。決めるときは決める人間なのである。

 かくして。審神者は審神者の不思議パワーで、離れ屋敷を建てた。
「えっ」
「どういうことだい?!」
 審神者は笑いながら、生活に必要な施設は揃えたと胸を張った。何だかんだで一番暴走していたのは審神者であった。

 真新しい屋敷に、荷物を運ぶ。小竜は物が少なかったので、蜂須賀の荷物運びを手伝った。
 そして、手伝いの刀たちが帰った夕方。蜂須賀がきちんと正座して、微笑む。
「これからよろしく、小竜景光」
「よろしくね、蜂須賀虎徹」
 そうしてちゃんと呼び合って、くすくすと笑った。

 新婚生活は難航した。何せ、家事が得意なふたりではない。結果的に、料理を学びに燭台切を頼り、掃除を学びに大包平(ハウスダストアレルギーの個体なので掃除に厳しい)を頼り、洗濯に堀川たちを頼った。そうして学びながら四苦八苦して生活を成り立たせていく。しばらくは出陣を控えてもらうと言っていた審神者の意図をふたりはここで漸く理解したのだ。生活って大変だ。
 それでも楽しくて、笑い合って。ああ、結婚してよかったと、素直に言えたのが、小竜にとっても蜂須賀にとっても良かった。本音を言わないふたりの、本音だ。

 小竜と蜂須賀の出陣が再開された。毎日必ず家に帰るように調整してくれる審神者に感謝しながら、蜂須賀と小竜は今日もただいまとおかえりを繰り返したのだった。

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