こりゅ蜂/真夏日/燭台切と福島も出ます。


 暑い。
 小竜は髪をまとめ上げて、団扇を使う。部屋に入れば、クーラーがある。だが、縁側に居るには理由があった。
 小竜の部屋に近い縁側から、審神者の執務室が見える。そこで、近侍の蜂須賀が働いていた。軽装姿で、テキパキと書類を片している。そして、ふっと息抜きがてらに小竜を見ては、微笑むのだ。
「はあああ」
 可愛い。大分茹だった頭で、小竜は思う。昨夜から働き詰めの蜂須賀は、外が真夏日だということを知らない。同じく缶詰めになっている審神者も、きっと知らない。刀剣男士たちは各々が歌仙の号令により、熱中症対策で日中の活動を禁じている。内番も、休み休み、である。
「小竜くん」
「うえっ、燭台切さんだあ」
「熱中症じゃないかな?」
「内緒にして?」
「格好つけだね」
「祖にだけは言われたくない」
「それもそうだね。あと、今は祖というだけなら彼もいるからね」
「あ、そっか」
 複雑な兄弟だな。小竜は自分の兄弟の謙信を思う。謙信は、今頃は五虎退に誘われた粟田口部屋で映画の鑑賞会をしている筈だ。
 何の映画だったかな。ぼんやりと思っていると、首筋にぴとりと冷たいものが当たった。
「ヒッ何?!」
 燭台切とは反対側。油断していた方で福島が笑っている。
「ふふ、冷たいラムネ瓶だよ。よく冷やしたから、すぐ飲んでね?」
 こんな天気じゃ、すぐに温くなっちゃうから。福島の言葉に、小竜はそうするよとラムネを受け取った。福島の手にはあと二つ、瓶があった。どうやら、審神者と蜂須賀の分らしい。
「外が暑いって言う?」
 小竜がそっと問うと、福島はキョトンとした。
「審神者が季節の設定をしているんじゃないのかい?」
「いや、審神者の出身時代と連動させてるんだけど」
「ああ、そうだったんだ。言わないよ。言われたくないんだろう?」
 微笑む福島に、そうですと小竜が頷いた。どうにも、福島に言われると畏まってしまう。
 大丈夫だよと福島が言う。僕らもなかなか君に甘いかななんて言いながら、燭台切が歩いていく。審神者の執務室へ、縁側を伝うように歩く二振りを見送って、そっと執務室を見る。蜂須賀は少し難しそうな顔で書類を見ていた。
 こっち見ないかな。そう願えば、通じたように蜂須賀が顔を上げた。そして、小竜を見て、ふわりと笑う。さらりと、髪が揺れた。
「ああ」
 綺麗、可愛い、美しい。小竜は言葉を全部飲み込んで、ひらりと手を振った。反対の手でラムネ瓶が冷たい水滴をたらりと流した。

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