獅子王+三日月+大包平/夏早


 好ましいこと。
 夏だ。セミの声こそしないが、夏の匂いがぷうんと香る。日陰で、獅子王がぐったりと寝込んでいる。三日月が、そよそよと団扇で風を送っていた。
「獅子王や、起き上がれるか」
「むり」
「もうすぐ大包平が氷枕を貰ってきてくれるからな」
「助かる。ほんとに」
 あいつはいいやつだなあ。獅子王が朦朧とした声を出す。これは重症だ。三日月は苦笑した。
「おい! 持ってきたぞ!」
「うるさいってば」
「大包平、病人には静かにな」
「む、それもそうだな」
 ほらと三日月に上体を持ち上げられて、また戻される。氷枕で首が冷える。ついでに、額にきんと冷えた濡れ布巾が置かれた。
「これ、氷水で冷やしたのか?」
「主の指南でな。気分がましになるらしい」
「それはいいな」
「さすがは主だな……人間らしいや」
「ヒトガタがあってこその病でもあるからなあ」
「主からは熱中症ではないかと言われたぞ! とにかく熱くなった体を冷やして、寝ていろとのことだ」
「ん、わかったぜ」
「ありがとうな、大包平」
「爺に言われずともな!」
 目の前で倒れられた時は焦った。大包平が息を吐いた。隣の部屋から持ってきた、扇風機をつける。
「今年はまだクーラーの点検と掃除をしていないから、使えないぞ!」
「はて、その扇風機はどうしたのだ?」
「獅子王が熱中症で倒れたと聞いて、俺が諸々を揃える間に、鶯丸が掃除したんだ」
「あの鶯丸が、か。愛されているなあ」
「いつも内番代わってるからかなあ」
「何?!」
「頭に響くから大声は止めてくれ」
「すまん。しかし、あいつ、内番を他の刀にやらせてるのか。それは良くない」
「まあ、俺は別にいいぜ」
「熱中症は日々の疲労も関係しているらしいぞ」
「はっはっは、鶯丸も少し反省したのだろう」
「む、そうか?」
「そうだとも」
 三日月は団扇の手を止める。獅子王はごろりと寝返る。ぱさりと布巾が落ちたので、大包平が氷水で濡らし直して、また額にのせた。
「ほんと、大包平がいて助かったぜ」
「俺も世話を焼くタチではないが」
「三日月にはできねーもん」
「何、俺も頑張れば出来るぞ」
「無理があるぜ」
「俺からもそう見える」
「あなや」
 しくしくと泣き真似をする三日月に、大包平と獅子王は呆れた顔をした。
 獅子王の看病に大包平と三日月は徹するらしい。獅子王は、たまには世話させれるのも悪くないなと鈍る頭で考えたのだった。

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