福島中心/ひなまつり/色んな刀が出てきます。


 古い刀が歌う。
 獅子王が笛を吹いている。今剣も、それに乗じて笛を取り出す。この本丸の中でも、芸事に長けた部類である二振りの合奏を聞きながら、福島は花を飾る。
 今日はひな祭りだ。九十九たちは賑やかに宴の支度をする。審神者の娘は、齢三歳。可愛くて、お転婆盛りである。そんな子どもを篭手切たちが着飾った。雛人形も、飾られた。
 福島は花で祝いを示す。福島が励起に応えてくれてよかった。刀たちは、花に詳しくないからと、新入りの福島に感謝していた。
「おー、綺麗なもんだ」
「あ、号ちゃん。おかえり」
「ちゃんと予約の菓子、受け取ってきたぜ」
「雛人形の前にお供えしてきてね」
「わあかってるよ」
 長谷部が、今日のためにと予約しておいた菓子は、雛あられや菱餅等だ。全部手作りすることも出来なくはないが、厨の負担を軽減することに経理担当黒田の刀たちと長義は、満場一致で賛成していた。生きることは、食こそが基本である。厨はただでさえ忙しいのだから。
 福島は花を飾り終えると、片付けを始める。昼からの宴会には間に合った。広い本丸を飾り終えて、ホッとする。しかし、重労働だったので、次の機会には手伝いを頼もう。福島は水や切り屑を処理していく。
 厨を通りかかったので、ひょいと覗いてみると、燭台切や歌仙が手伝いの物たちと忙しく働いていた。まさに戦場である。あ、福ちゃんさんと愛染が振り返った。
「どーしたんだ?」
「花を飾り終えたよ」
「そりゃいいな! 燭台切さん、聞こえたか?」
「勿論だよ。おつかれさま」
「光忠はもう少しかな」
「うん。あとは仕上げかな。あなたは宴まで休んでてね」
 あと、手の手入れも忘れずに。燭台切の気遣いに、ハンドクリームを塗っておくよと福島は笑った。
 審神者と、その娘。時空の狭間にある、本丸に審神者が自分の子を連れてくることは少ない。だが、子どもは臆することなく、篭手切が着付けてくれた着物姿でたったか走る。その背中を追いかけるのは秋田や五虎退といった短刀たちで。大包平は駆け寄ってきた子どもを抱き上げた。具足祝に飾られた刀である。彼は本当に子どもに優しい。
「あれ、何してるんだい?」
「桑名くんか。きみこそ」
「もう休んでおけって言われちゃった。松井は歌仙さんの手伝いしてるけど」
「なるほど」
 仕事を終えて、湯浴みを済ませたのだろう。桑名はううむと伸びをした。
「獅子王さんと今剣さんの笛の音がするね」
「演奏できるのは彼らぐらいかな」
「刀だからねえ」
「そうだね」
 まあ、隠し芸にしてる刀もいるだろうけれど。桑名のくすくすとした笑みに、福島はそうかもねと相槌を打った。
 笛の音が響く。そろそろ宴会を始めるよ。燭台切の号令が水面の波のように本丸に広がったのだった。

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