燭台切+福島/後日、本丸イチゴフェアが開催された


 真っ赤なイチゴだ。
 場所は光忠部屋。休暇のために武具の手入れをしていた燭台切は、ぱちくりと見た。小皿を二つ持った福島は、近侍の仕事が早く片付いたんだと言う。彼は薄着だった。まだ春には早い。早く部屋に入りなよと、燭台切はまず言った。
 部屋に入った福島は、小皿を燭台切に見せる。二皿の中には真っ赤なイチゴが数粒あった。
「いただき物らしいよ。仕事を頑張ったからって、審神者が分けてくれたんだ」
「そうなんだ」
「光忠も食べよう」
「あなたが貰ったんでしょう」
「いいの」
 かわいい兄弟に分けたかったんだから。福島は小皿を机に並べる。どうぞ。そう勧められて、燭台切は受け取ることにした。武具を片付けて、机に向かう。
「本当にいいの?」
「いいよ。なんだ、そんなに不安なのかい」
「不安というか、僕でいいのかなって」
 もっと、一緒にイチゴを食べたい人がいるんじゃないか。そんな燭台切の考えに、あのなあと福島は眉を下げた。
「かわいい兄弟と食べたかったんだ」
 イチゴを見て、すぐに顔が浮かんだのだ。福島は語る。
「食べ物なら、光忠が向いてるかなって」
「食べ物は食べ物だけどね。甘い物だし、小豆くんとかは?」
「彼は遠征中だよ」
「そうだったね」
 ほら、食べな。福島が言う。彼は手に真っ赤なイチゴを一粒、持っている。躊躇う燭台切から目をそらした彼は、かぷりとイチゴを口にする。じゅわりと水々しい音。ふわふわと甘い香りがした。燭台切は、ええいままよとイチゴを食べる。驚くほどに甘くて、少しの酸味があった。華やかな香りもいい。美味しいな。思わず顔がほころんだ。
「これは、そのまま食べるのもいいけれど、サラダとかにも向きそうだね」
「その考えはなかったな。うん、合いそうだ」
 やっぱり光忠に向いている。目を細めて嬉しそうな福島に、燭台切は告げる。
「あなたはイチゴが好きなの?」
 ぱちり。福島は瞬きをする。
「特別に思っていることはないね」
 でも、美味しい食べ物だとは思う。福島の曖昧な返事に、燭台切はなるほどねと頷いた。
「今度、大福を買ってくるよ」
「大福?」
「イチゴが入ってるやつ。美味しいよ」
「そうなのかい」
「ケーキやタルトはその次かな」
「うん?」
 そう、これは食育だ。燭台切は一振りで静かに燃えていた。
「小豆くんとのお菓子作りも経験してみよう」
 きっとあなたの刃生に効くよ。そんな熱の籠もった言葉に、福島はぱちぱちと瞬きをして、首を傾げたのだった。

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