福島中心/静かの唄/福島さん中心に、古刀とか、燭台切さんとか。


 途切れかけた意識。
 端々を掴まれて、無理矢理繋ぎ止められて、嫌だと思う。熱いから、離れてほしくて、ずっとずっと、昔に、こんな思いをした気がする。
 目覚める。目を開き、何度か瞬きをする。ずるりと起き上がって、息を吐いた。隣の布団では、燭台切が寝ている。それに安堵して、福島はそっと寝床を抜け出した。

 夜中だ。明け方にすらなっていない。太陽はとんと遠く、空では月が輝いている。肌を刺すような寒さの中、福島はふらふらと歩く。外は雪が積もっていた。
「何してんだ?」
 声がした。振り返ると、獅子王が居た。手燭を手に、彼は内番着で立っていた。
「きみこそ」
 そう言うと、獅子王はまあなと笑う。
「鵺が見当たらなくてさ。探し中。見なかったか?」
「見てないな」
「そうか。じゃあ、福ちゃん。ちょっと行こうぜ」
 そうして寝間着を引っ張られる。引っ張るなら手を繋げばいいのに。そう思うが、獅子王はたったか進む。
 その足取りに何とかついていくと、明かりの点った部屋があった。ここは何処だろう。少なくとも、福島は見たことがない部屋だった。
 獅子王が扉を開く。がちゃんと音を立てると、そこには青空が広がっていた。桜が咲いて、空は青く、ひらひらと花弁が舞う。
 手を離した獅子王がひとりで進む。奥では、三日月や大包平、鶯丸などの古刀たちが穏やかに過ごしていた。
 これは何だ。ぽかんとしていると、獅子王が振り返る。
「早く!」
 福島はその声に、足を踏み入れた。
 芝生を歩く。シロツメクサやタンポポも咲いている。春だ。福島が不可解そうにしていると、景趣のようなものですよと数珠丸が言う。
「景趣?」
 そう。刀たちが奥を見やると、そこでは審神者が寝ていた。
「たまに時空が歪むんだ」
 獅子王が楽しそうに言う。
「主が寝てる時に、たまになる。そういう時に、集まるようになってさ」
 古刀が多いけれど、若い刀もたまに来るぜ。獅子王が微笑む。この前は和泉守も顔を出したな。鬼丸がしみじみと言った。更にその前は歌仙だったな。小烏丸が、笑っていた。
「宵酔、好きにするといい」
 お前は酒は飲まんか。小烏丸は鶴丸と酒を嗜んでいた。遠慮すると、茶があるぞと鶯丸が緑茶を差し出した。受け取り、息を吐いた。何だ、この空間。
「然し、どうして、起きたんだ」
 大典太が言う。福島はやや間を開けて、さあと首を傾げた。
「少し、夢見が悪かっただけだと、思うよ」
「そうか……」
 大典太はそれ以上追求せず、他の刀も言わなかった。わいわいと他愛も無い雑談に興じる彼らのそばで、物語をゆらゆらと聞きながら、福島は暖かな陽気に身を任せた。

 朝だ。目を開くと、光忠部屋にいた。燭台切はもう起きているらしく、隣の布団は丁寧に畳まれていた。
 トントンと足音がする。おはよう、そう声をかけて、戸が開いた。
「ああ、起きたんだね。おはよう」
 そろそろ朝食の時間だよ。そう言う燭台切は、あれと首を傾げた。
「首のところ、どうしたの」
「首……?」
 そっと触れると、桜の花びらがあった。燭台切は、誉桜かいと不思議そうだ。福島は、いいやと頭を振った。
「夢を見たんだ」
 いい夢だったよ。そう笑うと、燭台切は怪訝そうにしていたのだった。

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