燭台切+福島/ありふれたぼくらの/太鼓鐘、愛染、蛍丸、大倶利伽羅も出てきます。


 物が物を持つことに、違和感がある。
 福島はそっと鋏を撫でた。まだつくもになるには、年数が足りない。そもそも、人に愛されたわけではなく、刀という己に愛されているのだ。まともな形を得られるか、福島には分からない。
「そろそろ夕飯だよ」
 ひょいと、燭台切が顔を覗かせる。福島がいたのは食堂近くの空き部屋だ。花の仕分けをしていた福島の周りには、いくつものバケツや鋏、花が散らばっていた。
「今行くよ」
「片付けしてからね」
「分かった」
 また後で。燭台切はたったかと食堂に戻った。福島はそっと花たちを整理する。新鮮な水につけたり、切り落としたり。せっせと働くと、花の香の隙間から、ふわりと料理の良い匂いがしてきた。
「福ちゃん!」
「わっ、どうしたんだい」
 太鼓鐘が飛び込んでくる。それを受け止めて、顔を合わせると、ご飯だぜと満面の笑みで言われた。
「今行くよ」
「いーや、俺が連れてく!」
「いいのかい?」
「勿論!」
 小さいのに、どこか大きな手。その手に手を重ねると、きゅっと握られた。あたたかい。福島が思わず呟くと、水に触れてたからじゃないかと太鼓鐘は言った。
「今日は肉じゃがなんだぜ」
「へえ」
「みっちゃんの得意料理のひとつでさ、俺はすっげー好き」
「いいね」
「福ちゃんは好きな料理とかあるのか?」
「俺かい? 特に思いつかないな。ここに来てから美味しいごはんばかりだよ」
「苦手な食材とかないのか?」
「食べれなかったことはないね」
「うーん」
 太鼓鐘はこりゃ難しいぜと丸い目を瞬かせた。
「福ちゃんは、美味しいとは、思うんだよな?」
「うん」
「じゃあ、苦手だなって事と、食べれないって事が、違うのは分かるか?」
「たぶん」
「それなら、苦手な食べ物は本当になかったのか」
「とても美味しいものばかりだよ」
「それはいい事だけどさあ」
 ちょっと気になるぜ。太鼓鐘の思案顔に、そうかいと福島は首を傾げた。話し終わる頃には食堂まで来ていた。
 食堂で歌仙たちから料理を受け取り、席につく。今日の福島は、太鼓鐘と愛染と蛍丸と卓を囲むことになった。明石は出陣中であり、大倶利伽羅は厨当番の手伝い、さらに鶴丸は平安の刀たちと何やら難しい顔をしていた。
「蛍、野菜も食えよ」
「やだ」
「しゃーねーな。半分食べてやるから」
「やったね」
「愛染も、蛍丸に甘いよな」
「うっ、それはそうだけどさあ」
 自覚はしてる。愛染の言葉に、だって国俊だもんねと蛍丸は何故か得意気だ。
 太鼓鐘は仕方のないやつと苦笑する。福島は、仲がいいねと微笑んだ。
「仲が良いのはいい事だ」
「福ちゃんさんと燭台切さんもだろ?」
「福ちゃんでいいよ。俺たちも仲良しに見えるかい」
「うん、とっても」
 蛍丸と愛染がこくこくと頷く。太鼓鐘はだよなあと嬉しそうにした。
「お兄ちゃんとは呼ばないけど、仲良しだよな!」
「うっ」
「太鼓鐘、福ちゃんが辛そうだぜ?!」
「だいたい、太鼓鐘も兄弟のことお兄ちゃんとは呼ばないじゃん」
「いやまあ俺たちはしょうがないよな?」
「貞宗だもんな……」
 愛染の言葉に、それもそうかと蛍丸は目を細める。確固たる印も、諸説も、あるわけじゃないからかと、福島は遠い目をした。最上級の贈答品ゆえの、歯痒さがある。
「何の話だい?」
 ひょいと現れたのは燭台切だった。隣には大倶利伽羅もいる。どうやら交代で食事を摂ることにしたらしい。太鼓鐘がまあ座ってくれよと隣の席を叩く。大倶利伽羅が太鼓鐘の隣に座り、燭台切がその向かいに座った。
「兄弟の話をしてたんだぜ!」
「みっちゃんと福ちゃんの話とか、俺のとこの話とか!」
「僕のところは兎も角、貞ちゃんは貞宗だからねえ」
「うう」
「おい、泣くな」
 大倶利伽羅の声は優しかった。泣きそうだった福島は、大丈夫と肉じゃがを口に入れた。美味しかった。
「味はどう?」
 燭台切の言葉に、福島は美味しいよと笑う。
「とても美味しいよ。このじゃがいも、ホクホクしてて好きだな」
「それは良かった」
 そのやり取りに、やっぱり仲はいいよなと太鼓鐘たちは頷いた。一振り、大倶利伽羅だけは、黙って飯を食えと言わんばかりに、黙々と食事を進めていたのだった。

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