現代転生系謎パラレル/獅子王中心/刀剣生活、始めます。


 最近、不思議な夢を見る。
 俺はそこで獅子王と呼ばれていて、本丸という日本屋敷で多くのトウケンダンシと暮らしていた。トウケンダンシは刀から目覚めた付喪神で、妖怪よりの神様らしい。それで、俺たちは本丸でゆっくりとした暮らしをしていた。さにわという人が上司にいて、戦争もしていたけれど、戦っている時の夢は少なかった。単純に、あまり出陣してなかったのだろうか。否、そうではないと気がついたのはある日の夢で、戦場に着いた途端、お前は見なくていいと、とん、と背中を押されて目覚めたからだった。何者かが、俺の夢を邪魔しているのだと思い、ぞっとしたが、平和な現代日本に生きる男子高校生には戦場なんて刺激が強すぎるのでありがたかった。
 そう、俺は刀剣高校に通う男子高校生だ。今年で三年生になる、春。よくつるむ幼馴染の御手杵や大倶利伽羅達と一緒に登校して、俺は一人だけ三年生の教室へ入る。よう獅子王、今日の目覚めは良さそうだな。そう笑ったのは昔馴染み兼担任の鶴丸先生で、遅刻したかと思ったらたまたま早く来ただけらしかった。
 クラスにはあまり喋る奴がいない。否、挨拶ぐらいはするし、世間話をすることもある。だけど、どうにも馬が合わないのだ。みんなと話していると、どこか"欠けた"気持ちに気がつかされるというか、何か空虚な気持ちになってしまう。幼馴染の御手杵達や昔馴染みの仲間達とは、そんな思いはしないのだが。

 午後の授業が終わると、俺は今日の曜日を思い出して、幼馴染達にメールで今日バイトと送り、学校を飛び出した。
 バイト先は朝から深夜までやってる喫茶店兼バーで、俺はバーになるギリギリまで働かせてもらっている。
「光忠さん遅れました!」
「いや時間ぴったりだよ、着替えておいで」
 はいと返事をして急いでバイト用のシャツとスラックス、エプロンを着る。
 店長の燭台切光忠さんに最終チェックをしてもらい、接客を始めた。
 バイト先にはとても恵まれていると思う。お店側にもお客さんにも昔馴染みの人たちが多いからだ。バイト仲間の山姥切はフードをかぶりながらの対応だが、常連さんばかりなので気にする人はいない。鶴丸先生ともここで出会った仲だ。幼馴染達もよく来店する。
 そうしてバーになるギリギリまで接客をすると、俺は着替えを済ませて裏口から喫茶店を出た。気をつけて帰るんだよと言われて、気をつけますと返事をした。

 そうしてフラフラ帰りながら考えるのは夢のことだ。今日はどんな夢を見るんだろう。そんな風に考えながら歩いていたら、遠くで雷鳴が聞こえたきがした。雷か、そう考えて振り返った瞬間。目の前に"それ"は現れた。巨大な体躯、獰猛な目つき、だけどどう考えたって熊じゃない、ヒトガタ。
「ってなんだこいつ!!」
 回れ右して走り出すと、どすどすと追いかけてくる化け物。どうすればいいんだと思案しながらとにかく行き止まりにだけはいかないように走り続ける。帰宅ラッシュが終わった時間帯、人影が見えないのが幸いだった。
 どうすればいいのか、いい加減息切れしてきて、どすんと鞄を落としてしまった。しまったと立ち止まった瞬間、追いつかれた。
 化け物が"刀"を振りかぶる。その動作に、あれと、俺は既視感を感じた。

 俺は、夢で、あれを、見たことがある?

 気がついた瞬間、奇妙な鳴き声。鵺だ。直感した。そして俺はいつの間にか目の前に転がっていた刀を黒光りする鞘から抜いた。そう、そうだこれは。
「俺の名は獅子王! じっちゃんの誉れだ!」
 掛け声を上げて走り出し、化け物に刃を向ける。何度も何度も斬りかかり、時折防がれながらも繰り返す。
 そうしてここだと腹を斬れば飛ぶ血飛沫、だけどそれは服につくことなく、さらりと宙に溶けて消えた。

「つっかれた……」
 安心してぺたりと座り込み、獅子王そのものである刀を鞘に戻す。夢が現実になった。そうとしか考えられない体験に、俺は何だか明日から嵐の予感がすると気が遠くなったのだった。

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