燭台切+福島/ラベンダー/Twitterアンケートより


 冷たい空気。肺に似た器官が軋む。つめたいな。福島が笑う。それはまるで太陽のようで、彼が福島光忠なのだ、と改めて思い知らされたのだった。
 戦場の血と土煙の臭いが鼻の奥にこびりついている。いくら風呂で身を清めたからって、そんな体調の刀に厨を任せないよ。本日の厨番の加州が厳しく言い放った。勿論、それは優しさである。燭台切は素直に自室へと向かった。
 同室の福島はきっと花畑にいるだろう。そう見当をつけていると、閉ざされた部屋からコトンと物音がした。あれ、なんで。そう思って戸を開くと、福島が乾燥剤や箱を手に、振り返った。
「やあ、光忠。おかえり」
「ただいま。あなたは何してるの?」
「ドライフラワーってやつを作ってみようかと思ってさ。秋田くんたちが教えてくれたんだ」
 一期くんが指南書を探して買ってくれたんだよ。そう語る彼の隣には開かれた本があった。なるほど、それがその本というわけか。
 福島のやや骨張った手が、手折ったばかりであろうバラの花に、触れている。触れたバラの花を調整のために動かして、箱に仕舞ってしまう。たっぷりと乾燥剤を詰めて、蓋をした。
「疲れているなら、昼寝でもするかい」
 福島からはふわりと花の香りがする。鼻の奥にこびりついた血と土煙の臭いが、薄れた気がした。
「だきまくらは」
「うん?」
 首を傾げられた。燭台切はふるりと頭を横に振る。何を無茶を言っているのか。自分はよほど滅入っているらしい。
「いや何でもない、よ」
「うーん、少し待っててくれ」
 この辺にあったかな。そう言って戸棚を漁り、何やら密閉できる袋を開いた。そこから出した小さな布袋を、ほら渡してくれた。
「サシェだよ。匂い袋のようなものだね。これは乾燥させた花を詰めてあるんだ」
「いい匂いだね」
「抱き枕をすぐには用意できないけど、これぐらいならあるよ」
 中身はラベンダーと、ええと。福島がつらつらと語る。どうやら安眠を誘うものらしかった。燭台切は匂い袋を大切に持って、休むよと言う。福島は、布団を敷くから光忠は着替えなと返事をした。
 匂い袋を枕元に、福島が敷いてくれた布団へ潜り込む。不思議と温かくて、匂い袋の柔らかな香りに、心に似た臓物が解れていくのを感じた。
「お兄ちゃんならここにいるから」
 だから、安心しておやすみ。そう言われて、燭台切は、これが庇護というものかとむず痒くも笑みが溢れたのだった。

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