燭台切+福島/初雪


 泣きたくなるような夜だった。
 しんしんと雪が積もる。明日の朝一番の仕事は雪かきだろうか。燭台切は白い息を吐いた。
「あれ、光忠じゃないか」
 ふっと声をかけられて、燭台切は振り返る。そこには薄い寝間着姿の福島がいた。寒そうだ。燭台切は真っ先に思った。
「ちょっと、何でそんな薄着でいるの?」
「うん? 水差しを貰いに行っただけだからね」
「上着ぐらい着て。部屋にあるでしょ」
「少しくらいはいいかと思ったんだが」
「駄目だよ。肉の器は寒いと風邪をひいたりするんだから」
「刀なのに?」
「僕らは刀剣男士だからね」
 ほらと手を掴んで、長船部屋に向かう。氷のように冷たい手だった。片手には水差しとコップを重ねて持っている。ゆっくりと歩いていると、福島は、あ、と口にした。
「雪が降っているじゃないか」
「気がつかなかったの?」
「そんな余裕がなかったんだ」
 余裕とは。燭台切は眉を寄せる。福島は、目を得てから初めての雪だと語る。
「雪が降ると寒いんだな」
「そりゃそうだよ」
「指先が痛い」
「冷えてるもの、当たり前」
「光忠は肉の器に慣れているな」
 言われて、そうだったと燭台切は思い出した。肉の器を得て数年。燭台切は随分と器に慣れた。初めの頃は、何もわからなかったものだ。だから、福島には説明せねばならない。先輩だもの。燭台切は息を吐いた。白い。
「冬は寒くて、冷えると風邪を引きやすくなるの。風邪を引くと、出陣もままならないから、引かないようにね」
「わかった」
「あと、寒い時は温かいものを飲むべきだよ、水差しは後で回収するから」
「ええ?」
「温かいお茶を淹れるよ」
「熱くないかい」
「そのうち慣れるよ」
「そうか。今の光忠みたいに?」
「うん。僕みたいに」
 それなら、頑張ろうかな。福島が嬉しそうにする。白い肌、冷え切っていて、血の気が薄い。あまり見ていて心地の良いものではなかった。
「皆はもう寝てるかな?」
「いや、小竜くんがまだ戻ってないよ」
「ああ、彼なら天文台かな」
「天文台?」
「裏山に小屋を作って、星の観察に必要なものを詰め込んであるんだ」
「曇ってるのに?」
「向こうは晴れていたりするんだ。山の天気は変わりやすいから。そこで朝までねばるかもね」
「ふうん」
 さて、長船部屋についた。中では小豆と謙信が本を読み合っていて、大般若が武具の手入れをしているようだ。まだ閉じた襖の向こうに思いを馳せる。福島の手は、氷のように冷たい。
「中に居てね」
「任せてもいいのかな」
「とりあえずその冷え切った体を温めるのが先だよ」
「わかった」
「良い返事だね」
 じゃあ、お利口にね。そう言うと、福島は子供じゃあるまいしと苦笑する。子供みたいなものだよ。燭台切は言った。
 そうして部屋に福島を入れると、燭台切は熱い茶を淹れるために給湯室まで足早に向かったのだった。

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