燭台切+福島/金木犀とバラの花


 咲う。

 思い入れのある花があるらしい。執務室に真っ赤なバラの花を一輪。それだけでいい。誰に彼にも無愛想な審神者は語る。それ以外は好きにしていい。福島が本丸に花を飾りたいと申し出た時の、やり取りだった。

 金木犀の枝を抱える。すたすたと運んでいると、いい匂いだねと、燭台切が厨から顔を出した。
「それは玄関に?」
「そのつもりだよ。光忠はこれから昼餉の準備かな」
「うん。おにぎりと味噌汁かな」
「いいね」
「ありがとう。あと、あなたも光忠だからね」
「はは、分かってるさ」
 光忠は光忠だ。そう笑むと、もうと燭台切は困った顔をした。
 おにぎりの具材は何にしようか。おかかと紫蘇と、梅干しは定番すぎるだろうか。でも、定番だからこそ美味しいね、そう語り合う。
 そうしていると、燭台切はそれにしてもと福島の持つ金木犀に視線を戻した。
「金木犀といえば、秋だね。相変わらず主くんは秋が好きだなあ」
「そうだな。通常の季節の巡りより、秋の時期が多い」
「思い入れがあるみたい。誰も理由を知らないんだけどね」
 真っ赤な紅葉。黄金色の金木犀。綺麗な季節ではあるけれど。燭台切は至極不思議そうだ。
 そんな彼に、はてと、福島は首を傾げた。
「秋は、日本だとバラの季節でもあるだろう」
「そうなの?」
「だから、」
 だから審神者は秋が好きなのだと、思っていた。そう続けようとして、口を閉じた。言っていいものか、分からない。あの無愛想な審神者の、赤いバラを一輪だけと言った人間の、あの郷愁を湛えた目を、言っていいのか分からなくなった。
 刀という物が、思い遣るのは、審神者にとって厄介だろうか。
「どうしたの」
 福島の不安を察したように、燭台切が質問する。案じる目に、大丈夫と、福島はふるふると頭を振った。
「なんでもないさ」
 これは審神者の秘密の一つなのだろう。だから、言わない。きっと、そのうち誰もが知ることになるとしても、今の福島は秘めておく。
 秘密は甘美だと言うけれど、これはただ、九十九が持つ、人の子への、愛とか云う情だった。
「金木犀といえば、花の終わりの頃に、地面に落ちた金木犀の絨毯が好きだって、誰かが言ってたよ」
「それは浪漫だね」
「そうだよね」
 ああ、そろそろ支度をしないと。燭台切が厨に引っ込んだ。福島は、花を飾るために玄関へと向かった。足取りは軽く、金木犀のむせ返るような香りが広がり、審神者の真赤なバラの花はただ一輪だった。

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