光忠兄弟中心/とむらひ7/完
トンボが飛ぶ。真っ赤な夕暮れ時。夕立のように鳴り響く蝉時雨。夏の幽霊みたいに、儚い思い出が広いヒマワリ畑に薄れていく。
「俺達はきっとまた会う」
ふくちゃんは笑ってる。燃えるような夕暮れに、身を解かしていく。
「その時には、また遊ぼう」
待って、置いて行かないで。僕らはずっと終わらない。その筈なのに。
手を伸ばすが、宙を空振るだけだった。夜がやって来る。夏が終わる。僕らの季節が終わろうとしている。さようなら、愛しい人。さようなら、我が友よ。
そしてもし、もう一度会えたら。
「僕らは、一緒に居られるのかな」
優しくも寂しい夏の思い出。解けていくそれこそは、怪異の最期だった。
・・・
朝、福島は目覚める。とんとんと、光忠部屋に姫鶴がやって来た。燭台切が眠っているのを見て、なあんだと笑う。
「あれの夢が終わったんだ」
「え?」
「思ったより、長い夢だったじゃん」
「ええ?」
「良かったね」
「ええっと?」
じゃ、ばいばい。姫鶴はそれだけ言って、どこかへ去って行った。
昼には手合わせがあった。対戦は福島と和泉守だ。燭台切と獅子王が福島を応援し、加州と堀川が和泉守の応援をしている。なお、他の新選組の刀たちは畑当番だ。
夕餉の時間には、皆で食事をした。近侍当番が終わった加州は嗜好品を買いに万屋に行きたいらしい。大和守がついてくよと呆れていた。
夜になる。いつものように厨に行こうとすると、そこのと引き止められた。三日月だった。
「どうしたの?」
「何、振り返ってみるといいぞ」
振り返ると、燭台切がホットミルクを持って歩いてきていた。
燭台切は、持ってきたホットミルクを飲みながら、幼少期の記憶の話をする。
「さようならをしたんだ」
「そうなんだ」
「きっと、記憶は忘れていく。それでいい。本来はあるはずの無い記憶なのだから」
そう否定しつつも、優しい綿で包み込むような声だった。寂しそうに、眉を下げる。
「でも、あなたと一緒に過ごした特別な時期を、忘れるのは少し、さみしいな」
「それなら、これから、作っていけばいいんじゃないかい」
「これから?」
「そう、これから」
平凡な言い方だけれど。福島は気恥ずかしそうに笑った。
「兄弟として、共に未来を作っていこう」
それもいいだろう。福島の提案に、悪くはないねと燭台切は笑う。
春の夜。一際明かりの強い朧月夜だった。
・・・
【おまけ】
福島
・今回の主人公その1。
・兄であること、を考えた個体。
燭台切
・今回の主人公その2。
・幼少期の記憶という怪異に巣食われていた。
・もう大丈夫です。
獅子王
・兄弟ってなんだと思う?「まあ、仲良しならいいんじゃないか?」
日本号
・かなり心配していた。
太鼓鐘
・唯一内情をそれなりに知ってる。
髭切
・獅子王と兄弟説があるのこわいね。
加州
・何なの?!いやホントになんなの?!
三日月
・夜は散歩してる。
鶯丸
・早朝に茶を飲んでる。
大包平
・早寝早起き規則正しい生活。
姫鶴
・何か知らんが怪異解決しました。
審神者
・二足歩行で言葉を喋る人型の何か。