光忠兄弟中心/とむらひ3


 僕らの滞在する村にある小さな神社で、夏祭りをやっていた。事前におばあちゃんに聞いていた僕は、ふくちゃんを誘って夏祭りに来ていた。半袖半ズボンの僕らは、お小遣い袋を握りしめて屋台に向かう。
 鳴り響く笛の音、人影、雑踏、揺れる鈴の音。ふくちゃんは大きなリンゴ飴を上手に食べていた。僕も人形焼きの袋を開けて、甘いそれを口にする。さっき買ったわたあめは、袋に入れて腕に下げている。遊戯の屋台では、まず一緒に型抜きをして、成功した。水風船釣りでは、赤い色の水風船を狙った。輪投げでは、ふくちゃんが失敗を重ねてしまって、見かねたおじいさんがオマケをくれた。
 楽しくて、繋いだ手のふくちゃんが嬉しそうだった。だから、宵祭りまで一緒にいたいなと、思い切って言うと、ふくちゃんはいいよと笑う。
「一緒に居よう」
 夕方になったら、お好み焼きでも食べようと提案してくれた。今日のごはんはいつだっていいんだ。僕はそう言って、小さな手をきゅっと握り返した。


・・・


 春の景趣。冷たい朝が来る。福島は一人で起きた。
 励起してからしばらく経った。教育係はまだ付いているものの、今日から、燭台切と同室になることが決まっていた。近侍は長谷部を通り過ぎ、加州の番となっていて、加州が引っ越しの手伝いを誰か彼かに頼んでおきなよと忠告してくれた。
 いつものように獅子王と朝餉を済ませて、荷造りをする。と言っても大した量はないはずだ。だが不安なので、教育係の獅子王と、畑当番の頃から交友のある秋田に、手伝いを頼んだ。
 二振りとわいわい話しながら荷造りをして、まとめた荷を背負って燭台切の部屋に向かう。燭台切も部屋を片付けたのだと、手伝ったらしい鶴丸と太鼓鐘が笑っていた。大倶利伽羅は無言だったが、どこか嬉しそうだった。格好つけたがり燭台切に、兄弟が来たことが嬉しいんだぜ。獅子王がこっそり教えてくれた。
 相部屋に荷物を運び終えて、荷ほどきを済ませる。日が傾く前に引っ越しを終えると、さて改めてと燭台切に向き合った。他の刀は、各々の用事に向かっていて、部屋にはいない。
「これからよろしく」
「こちらこそ、よろしくね」
 握手すると、ふっと気がつく。何かが違った。己と、彼は、何かが違う。福島がやや動きを止めると、目敏く気がついた燭台切が、どうしたのと、声をかける。なんでもない。福島はすぐに笑みを浮かべた。上手く笑えただろうか。言葉には、出来そうになかった。

 特に当番ではないが、何事も経験である。福島は歌仙の夕餉作りの手伝いをしていた。同じく手伝いをしている獅子王は、今は畑まで野菜を取り向かっている。小夜と共に歌仙の手伝いを細々とする中での雑談で、歌仙は燭台切たちと交代制で厨当番をしているのだと聞いた。ならば、燭台切のことをよく知っているのかな。そう思い、質問する。
「ねえ、光忠に違和感はあるかい?」
「違和感?」
「分かるかな」
「いや、特に分からないな。演練で見かける、他所の燭台切と変わらないと思うよ」
「そうなの?」
 でも、確かに手に違和感があった。夜に厨で会い、話をする時も、違和感がまとわりつく。何だろうか。うむむと眉を寄せれば、歌仙が言った。
「あまり気になるようなら、教育係の獅子王に相談してご覧。それで、最終的に審神者へ相談することになったって、あの人は嫌とは言わないよ」
「そうかな」
「そうだとも」
 ねえ、お小夜。そう歌仙が言うと、そうですねと言葉が返ってきた。あの人は優しいですから。小夜はしみじみと言った。

 日が暮れた頃。日本号の酒盛りに顔を出して、少しだけ話をしてから、酒を断り、遅くなる前に厨に行く。燭台切が明日からの厨当番の準備をしていた。こちらに気がつくと、やあと声をかけてくれる。そして、そのまま小鍋に牛乳を注いだ。今日もでしょう。そう言われて、バレたかと福島は苦笑した。
 ホットミルクの甘い匂いが厨に広がるまで、燭台切は本丸の初期の頃の話をしてくれた。物知りだね。そう言うと、当然さと返ってくる。
「僕は初太刀じゃないけれど、結構早い頃に励起したからね」
「そうなのかい」
「うん。だから、あなたの先輩かもね?」
「ははは、光忠は光忠だ。お兄ちゃんと呼んでくれてもいいんだよ?」
「何の事だか」
 はい、どうぞ。ホットミルクをマグに入れて渡してくれる。ありがとうとお礼を言いながら受け取って、口に運ぶ。火傷しない程度に温められた牛乳に、体が温まる。
「今日から、同じ部屋だね」
 燭台切が言う。そうだな。福島は言った。
「嬉しいかな」
 お互いに。その言葉に、燭台切はそうかもねと何処か懐かしそうな目をしていた。その目に、違和感があった。だけど、それを言葉にすることも出来ず、指摘出来ず、福島は静かにマグを傾けた。ホットミルクは仄かに甘くて、柔らかな匂いがして、何より、温かかった。

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